大軍拡と財政民主主義
小沢 隆一 東京慈恵会医科大学名誉教授
非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が4月13日、オンラインで開かれ、東京慈恵会医科大学名誉教授の小沢隆一さんが「大軍拡と民主主義」と題して報告しました。小沢さんの報告(要旨)を紹介します。(文責編集部)
◆大軍拡のための防衛財源確保法
大軍拡のための法的な枠組みを定めた防衛財源確保法が2023年の国会で成立しました。その前年の22年にロシアのウクライナ侵略があって、岸田首相がそれは明日の東アジアかもしれないと言って、それまで大体1%の防衛費を一挙に1.6倍に引き上げ、今年はほぼ倍の9兆円という予算規模になっています。
防衛財源確保法では、⒜税外収入として、外為特会やコロナ関連の給付金の使い残しをかき集めました。⒝財政法44条の資金の制度を使って防衛力強化資金をつくりました。⒞防衛財源確保法とは別の防衛力強化弁償及び返納金、例えば丸の内の大きなビルを民間に払い下げた税外収入を充てることで、税金や国債によらない防衛財源の確保にあれこれ手を広げたわけです。
税制では、大軍拡が始まったときの税制改正大綱で法人税、所得税、たばこ税の増税措置の方針は決めて、増税は2024年以降の適切な時期としました。
法人税とたばこ税については、2024年の法改正で2026年1月から防衛特別法人税として徴収されることになりました。所得税は、3月31日に成立した税制改正法により防衛特別所得税の1%が来年1月から始まります。この1%は、いまの復興特別税2.1%の1%分を使うということで、復興特別税の終わりの期間を後ろに先延ばして復興財源は確保し、防衛特別所得税を徴収するということです。
◆防衛力強化資金の異常性
防衛力強化資金が異常だと思うのは、外為特会の使い残しとか、あるいはコロナ給付金の使い残しとか、国債の償還に充てる以外の部分がほとんどそのまま防衛財源に充てられ、国民生活には回らなくなるということです。
財政法44条は、会計年度独立や総計予算主義の例外扱いですが、税外収入をあちこちから先取りしてかき集めるのは例外とは言えないと思います。この財政法44条にもとづく資金が5年間で4兆円から5兆円がプールされ、そこから毎年武器の購入とかに充てる1兆円規模のお金が振り出されていきます。
◆予算原則を踏みにじる防衛財源確保法と防衛力強化資金
防衛力強化資金は、予算単年度主義は例外扱いされていますが、毎年の予算で防衛力強化資金から取り崩す金額を決めるという意味ではクリアしています。
会計年度独立の原則は制度上で例外が認められているのですが、毎年1兆円規模のお金がそこから取り崩されていくのはあまりにも巨額すぎます。元々5兆円規模の資金を溜め込むのはあまりにひどいと言えます。
「ノン・アフェクタション」の原則は、紐付き資金は駄目だという原則です。ところが防衛力強化資金は、前の年までに使い残したお金をあらかじめ先に取るわけです。使い残しのお金と防衛力強化資金が紐付いた状態になるわけで、明らかに予算原則違反だと思います。
防衛力強化資金は「当分の間」設定することになっていますが、法律用語で「当分の間」は要するに終わりはなく恒常的な措置ということです。
その他の財政紊乱は、この契約額が2倍3倍に増えていて、当然ローンが増えて後年度負担も増えることになります。
財政法にある「継続費」制度は、防衛費に独占的に使われています。そもそも「継続費」を使う必要がある費目は軍事費以外にはないのです。
自衛隊の軍艦を造るのに建設国債を利用し始めましたが、建設国債制度の完全な悪用です。建設国債は、道路とか港湾とか国民の役に立つものを建設する、将来の人たちの利益にもなるということでOKなのですが、軍艦は道路とかとはまったく違うわけです。
◆大軍拡下での防衛予算の編成と執行状況
大軍拡のもとで防衛費が急増しています。岸田内閣以前の新規契約は3兆円台で推移していたのが、岸田内閣の23年には約9兆円にまで増えて、その後も9兆円台で続いているわけです。防衛用の船とか飛行機は、造るのに時間がかかるので早く契約したいということでいきなり9兆円にまで積み上がっています。
しかし、人件費は大して増えていません。自衛隊定員24万人のうち現在の充足は90%程度です。自治体から18歳人口のデータを入手したり、一生懸命高校にリクルートしていますが応募がないのです。また、防衛大学校も今年最大の人数が任官しないということで人が足りていません。
装備はどんどんと新しいものを増やしていますが、継戦能力に差し障るというので弾薬・燃料は備蓄を増やしています。この間、イージス艦、ドローンとかがどんどん契約されています。
施設の強靱化も始めていて、基地機能を地下化したり、爆弾を落とされても大丈夫なように堅固な施設にしています。武器・燃料・弾薬・施設にお金を急速につぎ込んでいる状況です。
「戦争する自衛隊」への変貌
こういう状況は、近隣諸国との「長期戦」も覚悟し、近隣で戦争する自衛隊に変わろうとしていると思います。
岸田さんは明日のアジアがウクライナみたいにならないようにと言いましたが、自分たちが好んでウクライナみたいになるために武器・弾薬・装備を強化しているとしか言えないわけです。
昨年の補正予算は防衛費の上積みが行われて11兆円まで行きました。補正予算は、年度途中で予定していない突発的な費目に対応する制度ですが、元々計画的に組まれている防衛費を前倒しすることが行われていて、補正予算制度の逸脱、乱用です。
コロナ以降、補正予算のモラルハザードが生じていますが、与党だけではなくて賛成した他の野党にも責任があります。年度途中で増収分がなければ補正予算は国債に頼るしかなく、上積みした防衛費の国債依存度は6割とか7割とすごく高いのです。財政法4条の趣旨違反と言っていいと思います。
対米投資のための「交付国債」
「交付国債」は、例えば日本がかかわる国際機関に拠出金を出すときに政府としての持ち出しを具体化するための仕組みです。
去年8月の日米関税協議でトランプ政権と86兆円の対米投資を約束しました。この対米投資の焦げ付きに対する保険として国が総額で3兆円の「交付国債」を決め、26年度は1兆7000億円を出すとしたのです。
この対米投資先は全部アメリカの大統領が決めるのです。戦略投資先は、AIとか半導体、造船、医薬品、重要鉱物のレアメタル、量子コンピュータ、人造ダイヤモンドなどです。これらは中国とつばぜり合いの戦略物資で、軍事絡みの安全保障投資であり「交付国債」は隠れた軍事費だと思います。
◆日本国憲法の財政原則からの検証
憲法の財政に関するルールは、国家権力に対する制限規範の性格と、授権規範の性格を持っている規定です。財政にかかわっては、国会は何をしていい、内閣は何をしていいいという授権規範の性格が強いのですが、とても重要なルールです。
同時に、このルールには原則と例外の関係がつきもので、例外には歯止めが必要ですが、この間の財政運営は公開原則が曖昧にされ、政府の説明責任もひどいことになっています。公開性とか説明責任の原則をはっきりさせるためには、国会での予算審議が大事ですが、残念なことに野党の突っ込みは弱いのです。
憲法の財政に関する規定がまともに機能することによって人権が守られ、あるいは平和、民主主義が守られるわけです。そのためにも主権者として、予算審議を監視しなければいけないということです。
この間、消費税反対運動が盛り上がっていますが、税金を払うのが嫌だというレベルで終わらせてしまうと、「税金や保険料を払うのは嫌でしょ」と高齢者へのしわ寄せなど分断を煽る国民民主とかチームみらい、維新の人たちに票を持っていかれるのです。
軍事費を削れば消費税廃止ができる、教育予算、あるいは医療福祉をこれだけ増やせるという議論をよくしますが、軍事費を削ることと教育費などの負担を減らすことをバータ関係にしては駄目だと思います。教育費の負担を減らす、福祉や医療を手厚くすることは、国民の権利、生活にかかわることだから全部豊かにしなければいけないのです。全部を豊かにするためには、個別の政策だけを重視するのは狭い視点であり、主権者の立場から国家財政全体をトータルに考える視点でないと、軍事費なくす運動は取り組めないと思います。
