原子力を巡る状況~柏崎刈羽原発再稼働を中心に

        岩井 孝 元日本原子力研究開発機構研究員

 非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が3月19日、オンラインで開かれ、元日本原子力研究開発機構研究員の岩井孝さんが、「原子力を巡る状況~柏崎刈羽原発再稼働を中心に~」と題して報告しました。岩井さんの報告要旨を紹介します。(文責編集部)

 柏崎刈羽原発6号機の再稼働準備中に制御棒トラブルがいくつか発生しています。25年6月30日には制御盤の電気トラブルで1本の制御棒の駆動装置が動かなくなりました。
 今年1月20日からの再稼働の準備作業中の1月17日に制御棒の引き抜きにかかる警報の設定ミスが発生しました。
 1月21日に原子炉を起動し、制御棒を26本ずつセットで引き抜いていくのですが、翌22日の3回目の引き抜き中に1本の制御棒に関し制御棒監視系の警報が発生しました。
 2月9日に再び再稼働しましたが、12日に中性子検出器の補正を行う移動式設備の一つが自動で引き出せなくなりました。
 2月16日に試験的な発電と送電を始め、20日に一旦原子炉を停止してタービンなどの状態を点検する「中間停止」に入りました。2月24日の再起動直後に、制御棒を引き抜こうとしたときに1本の制御棒の連結部が分離したと警報が出ました。
 ここまでの経過と問題については2月25日の常任世話人会でも報告しました。(ニュース3月号に掲載)
 

 これらのトラブルについて原子力規制庁柏崎刈羽原子力規制事務所の伊藤信哉所長は25日、原子炉を止めるために必要な制御棒を挿入する機能は健全に保たれているとして「原子力安全に大きな影響を及ぼすものではない」と言っています。
 3月3日に定格電気出力135万6000kWに達しました。いろいろな試験をしながら3月18日に営業運転開始を予定していましたが、12日16時頃に発電機から地面への漏電(地絡)という警報が出ました。18日の東電のプレス発表では、「地絡(漏電)は発生しておらず、発電機と接地装置(アース)をつなぐ導体が破損して警報が発報した」と言っています。
 ここまで見てくると、東電に原発を運転する技術的能力があるのかということ、安全最優先と常に言うのですが再稼働最優先になっています。原子力規制委員会もとにかく再稼働させ、営業運転に持っていくということで自らの役目を果たしていません。
 新潟県、新潟県知事も、住民の立場に立って監視しなくてはいけないのですが、その役割を果たしていないと思います。
 原発は車と違ってアクセルはなくて、制御棒というブレーキだけで運転しているのです。だから、制御棒をむやみに引き抜いてしまえば一気に核分裂が増えて、核暴走(出力暴走)になり、炉心溶融から重大事故に至るわけです。ブレーキである制御システムは非常に重要で、正常に作動することだけが核暴走を防ぐためのすべてなのです。
 それ以外にも問題があります。いま原発は30年を超える前に「長期施設管理計画」を作って規制委員会の認可を得る必要があります。6号機の申請書には34箇所の誤りがあると報告されています。規制委員会の山中伸介委員長は「社内の品質保証、長期施設管理計画認可制度そのものに対する理解が非常に乏しい。小さなトラブル全然『質が違う』」と言っています。
 2月24日の原子力規制委員会では、柏崎刈羽原発のテロ対策に関する秘密文書を担当社員が許可なくコピーして自分の机に保管し、その一部を社内の関係者に送っていた核物質防護規定違反が判明しました。今回の件は組織的にみんなでやっていたわけではないということで、安全上の重要度区分は下から2番目と判断されています。

 茨城県の東海第2原発は、防潮提工事でコンクリートが入っていないところを見つけられて追加工事が必要ですが、今年12月の完成は非常に難しい状況です。
 東海村長は、早々と2025年6月に再稼働に同意すると言いましたが、茨城県知事や周辺5市の市長は同意していません。
 茨城県は同意に向けて、事故時のシミュレーション結果として「避難者数は最大で17万人」などを公表しました。放出される放射能量は福島第1原発事故と比べて非常に低く、セシウム137では100分の4の想定です。それから「同一風向きが長時間継続かつ降雨が長時間継続」という恣意的な条件設定により避難者数を少なく見せています。これは原発事業者の日本原電に依頼して作成したので信頼性に欠けると思います。避難計画の策定は14市町村のうち東海村や日立市など8市町村で、水戸市長は「実効性ある避難計画ができない限り同意できない」と言っています。それから、2021年3月に水戸地裁が「自治体が策定する住民の避難計画が不十分」として運転差し止めを命じる判決を言い渡し、いま東京高裁で審理中です。

 中部電力の浜岡原発は、規制審査で「基準地震動」の算出のときに意図的に過小評価になるように不正をしました。規制委員長は、自分たちで評価していないのでこんなことをやられても「見抜くことはできない」と言っています。
 原子力エネルギー協議会(ATENA)は1月19日に「他の原発では同様の不正は確認されなかった」と発表しました。この短期間で調査できるとは思えないのですが、原子力規制委員会はこの報告を容認し、厳格な調査を求めていません。これも問題だと思います。

 テロ対策施設の特定重大事故等対処施設の猶予期間を緩和しようという話が出ています。2019年に規制委員会の更田前委員長は電力事業者の都合で安全の規制を緩めることはしないと突っぱねたのですが、今年2月18日の原子力規制委員会では、その期限を延長する方向で検討すると決めました。再稼働による営業運転開始から5年という案などを想定と報じられています。見直しが決定されれば、女川原発2号機は今年12月の運転停止を回避することができます。

 最後に、福島第1原発事故機の廃炉の問題です。1号機と2号機の原子炉建屋の使用済燃料プールには、事故当時の使用済燃料集合体が残されています。時間はかかりますがこの取り出しはできるのではないかと思います。
 進捗がないのが燃料デブリの取り出しです。東電は昨年7月に「圧力容器内の燃料デブリは上部からレーザーや水圧装置で削り落として格納容器底部に集める」「格納容器の側面から装置を差し入れて取り出す工法を検討している」「取り出し開始は2037年度以降に先送りする」と公表しました。広く散らばっている燃料デブリをこんな工法で全量回収するのは無理だと思います。仮に、毎日100キロずつ回収できたとして、年間200日稼働しても20㌧で、880㌧なら44年かかるわけです。これだって達成できないと思います。
 したがって、原子炉建屋内に流れ込んで汚染水になっている1日当たり60㎥くらいの地下水の侵入を広域遮水壁で防ぎ、原子炉建屋を地下ダムと上部構造物で覆う形で当面の安全を確保して、どうするかという議論をすべきだと思います。