「アメリカの対外戦略の転換と国際情勢の現局面」について
本田 浩邦 獨協大学経済学部教授
非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が2月19日、オンラインで開かれ、獨協大学経済学部教授の本田浩邦さんが、「アメリカの対外戦略の転換と国際情勢の現局面」と題して報告しました。本田さんの報告要旨を紹介します。(文責編集部)
◆アメリカの「競争的権威主義」
「競争的権威主義」についてハーバード大学の政治学者のスティーブン・レヴィツキ―らは、「政党が選挙で競い合う一方で、政策担当者が批判者を排除し、敵対者に不利な条件を強いることによって権力を恒常的に濫用する体制」だと言っています。
アメリカの「競争的権威主義」の典型的な一つは、ICE(移民税関捜査局)による移民の取り締まりです。ミネアポリスでは、一般市民までも拘束して今年の1月だけでも150人が逮捕されています。
オレゴンの州軍の司令官は、オレゴンは州軍を派遣しないと言っています。トランプは州軍を連邦の管理下に置いて派遣したいと思っていますが、そのためには「内乱鎮圧法」の発動が必要になります。発動には、破壊活動や騒乱状態、反乱が起きなければ駄目なのでトランプはミネソタやポートランドでのことを反乱だと言うわけです。
一方、デモ隊は、「内乱鎮圧法」を発動させないために、着ぐるみを着て、太鼓を叩いてYMCAを歌ったりしてデモをやる形で抵抗運動を進めています。
◆第一次世界大戦中とその後の「赤狩り」
アメリカでなぜこんなことが起こるのかですが、第1次世界大戦とその後の「赤狩り」の時代に非常に似ていると思います。
民主党のウィルソン大統領は、1917年4月に第1次世界大戦参戦に舵を切り、国家への忠誠を欠くとみなされる外国人の逮捕、裁判なしの投獄を命じる権限を司法省に与え、即座にドイツと内通しているとして98人を逮捕しています。さらに6月には「スパイ活動取締法」ということで、忠誠にもとる思想を「口にし、印刷し、書き、あるいは出版すること」を違法としました。ウィルソンは、行政命令と「スパイ活動取締法」の二つで憲法無視の体制を作り出すことができたわけです。
戦後のマッカーシズムの場合はターゲットが共産主義者です。マッカーシーが登場して、マンハッタン計画の中心が共産党のシンパで情報が漏れるということで、共産主義団体にターゲットを絞って「赤狩り」をやりました。
ドイツとも似ていると思います。ドイツのナチスは、「授権法」によって超法規的な措置が可能となりました。エルンスト・フレンケルというドイツの法学者は、「大権国家」と「規範国家」という概念を用いて、「大権国家」は通常法の上に乗ってそれを抑制するような法律の体系で、「規範国家」は民法だとか刑法だとかの市民社会を律する法律ですが、これに「大権国家」が乗っかってくる「二重国家」ということを言っています。トランプがいまやっていることはこの「二重国家」化だと思います。
◆トランプの時代のアメリカ
トランプは行政命令で州軍を派遣していますが、最高裁が数年前に大統領の刑事免責特権を決めたので、大統領は職務でやったことは免責されます。州軍や軍がどんなことをやっても、大統領の赦免によって留置場から出すことができ、これによって超法規的な取り締まりができることになります。
いまのICEと州軍の移民取り締まりは、規模と領域において非常に限定的です。トランプは、その制約を打破してもっと多くの地域に州軍だけではなくて連邦軍を派遣したいということで、「内乱鎮圧法」で州軍を連邦化するということもあります。トランプは、「内乱鎮圧法」と「選挙の国営化」をいまやらなければ駄目だと言っています。
「内乱鎮圧法」は、州政府が武装反乱だとかに十分対処できない場合に、大統領に連邦軍を全国展開させる権限、州兵部隊を連邦に移管する権限を与えるという法律です。
トランプは大統領選挙を連邦政府による管理にし、投票所の監視に軍隊を投入する可能性を示唆しています。そうすると票の再集計を繰り返すなど連邦政府が好きなようにできるわけです。
したがって、大統領の公的活動に対する全面的な免責特権と大統領による赦免と「選挙の国営化」に、この「内乱鎮圧法」を重ねれば、事実上、戒厳令の状態を生み出すことができるのです。
トランプが「非常時」ということを拡大していくと、選挙そのものが行われない可能性があると思います。まさに「競争的権威主義」の到来ということになります。
◆アメリカの対外戦略の転換
昨年11月の安全保障戦略でトランプは、クリントン以来の「関与政策」は、ロシアや中国の政治体制の民主化に成功せずアメリカに敵対的な勢力となった、アメリカは軍事的にも経済的にも弱体化したと言い、みんな自立してアメリカに頼るなというのが一つめのポイントです。
もう一つは経済面で、グローバリズムと自由貿易の見直しで、相互主義と言っています。相互主義はアメリカに赤字が出ないように是正することです。
アメリカは地域戦略の力点を中南米に置くと言っています。中東の湾岸君主国に対しては「共通の利益分野で協力しつつ、この地域とその指導者、そして国家をありのままに受け入れる」と言い、これはトランプがやっている通りです。
総じて、現在の世界の多極化を協調的ではなく敵対的なものにする戦略転換だと思います。
NATO諸国は、アメリカへの依存を削減しつつ、これまでの域内の結束、通常戦略のみならず核戦略の面でも対ロシア強硬姿勢を継続するということです。
◆アメリカと中国によるAI支配
カーネギー国際平和財団は、いまのAIインフラはほとんどアメリカと中国が独占していて他国はそれに依存するほかなくなっていると言っています。
このAIの特徴は、先発国への後発国のキャッチアップができないと言うのです。アメリカの場合はシリコンバレーの数社が管理するインフラへのリアルタイムのアクセスにその他全部が依存しており、それを武器にしてアメリカ政府は、輸出管理や制裁を通じて米国製AIシステムへのアクセスを制限しうるということです。アメリカの制裁対象になると、新しいデータの更新とかがまったく得られないわけで、従属関係に置かれることになると言っています。
この問題が軍事にどうかかわるかですが、AI能力を欠く国は、大国だけでなく、先進的なAIツールを入手した小国や非国家主体にも劣る状況に直面する可能性があるということです。アメリカや中国のAIに接続していなければ、接続している国に負けてしまうということです。
◆新START後の新たな核開発競争
新START条約(新戦略兵器削減条約)は1月に期限切れとなりましたが、アメリカは、弾道ミサイル潜水艦のミサイル発射管の再転換、地上配備対艦弾道ミサイル(ICBM)への複数弾頭の搭載、プルトニウムの生産加速を狙うと言っています。
「核抑止」擁護論の現在
共和党のトム・コットン上院議員は、「核戦争を抑止する方が、実際に戦うよりはるかに安上がりだ。我々は核抑止力を毎日活用している。信頼できる核戦力の存在によって、敵対勢力は本来なら検討するであろう攻撃を企てようとしなくなる」「競争は既に始まっている。我々が傍観している間に、ロシアと中国は数十年にわたりこの競争を続けてきた。問題は核戦力における競争の有無ではなく、アメリカが競争に参加する意思を示すかどうかである」と言っています。
核開発の抱える矛盾
ロスアラモス研究グループの核技術者のグレッグ・メロは、「核弾頭、ミサイル、潜水艦などは開発費が予算を上回っている。プルトニウム核弾頭コアの製造事業費用は、500億ドル」「テネシーのウラン加工施設をつくるための十分な数の技師が確保できない。パンテックス核兵器の組み立て工場では60人の技師が、近隣のAIデータセンターに高賃金で雇われて離職。AIデータセンターは電気技師に50万ドルの給料。ロスアラモスも同様で、近隣の石油関連施設に人材が流出」ということで、核開発を今後進めることについて、莫大なコストと人員がかかるので、アメリカにとって大きな負担となると言っています。
◆帝国の維持コストの肥大化
核軍事力、AI、ドル支払が現代帝国主義の三種の神器になっていますが、それらを維持するための経済負担があまりに大きく、その永続的維持は無理だと言わざるをえません。なぜかと言うと、核軍事力とAIのコストは指数関数的に増えるわけですが、ベネズエラやキューバを取って帝国主義的な領域を拡大しても、それは算術的にしか増えないので、その差が最終的にはドルに降りかかることになり、国際的な反発を招くことになります。これは原理的には非常に難しいことをやろうとしていると言わざるをえないと思います。
