トランプ政権下のアメリカのいま  2026.5.15

岡田 則男さん 常任世話人ジャーナリスト長

 米・イスラエルの対イラン軍事行動は、戦闘終結に向けた協議や合意も先が見えず、米国はもとより世界中を混乱に陥れたままです。トランプ大統領は、戦闘終結を巡る米国の提案へのイラン側からの返答を「ごみくず」非難するなど、交渉は暗礁に乗り上げた状態です(5月13日現在)。一方的にイランに攻撃を仕掛けた米国は出口戦略がないまま戦争状態を長引かせています。
 トランプ政権は同時に、国連憲章と国際法にもとづく各国の主権と独立や権利の平等という国際関係の原則を踏みにじって、あるいは無視して覇権の追及をつづけています。米国がみずからの「勢力圏」と勝手にみなしているラテンアメリカでは、各国の主権を無視して石油などの資源を含め経済的支配、軍事的威嚇の強化を続けています。ベネズエラへの軍事干渉につづき、ラテンアメリカ・カリブ海地域で主権と独立をまもってたたかうキューバの体制転覆をねらったあからさまにねらっています。また世界最大の島、デンマーク領のグリーンランド「購入」を迫り、軍事脅迫までおこなってきました。
 4月27日に始まった核不拡散条約(NPT)の第11回再検討会議で、米国のクリストファー・ヨー国務次官補が一般討論での発言で、トランプ政権は核兵器がより少ない世界を実現し、最終的に廃絶に前進したいとか、第6条にもとづき軍備管理・軍縮交渉にすべての核兵器国が参加しなければならないなどとのべましたが、あきらかに核兵器廃絶への世界の流れを意識したものでしょう。じっさいには、中国やロシアの核戦力増強を口実に、核抑止政策を盾に自らの核戦力増強、近代化を進め「核なき世界」と真逆の主張を続けています。
 米国内ではトランプ体制のもとで、ひじょうに大きな反動的動きが進められています。いろいろありますが4点だけ取り上げます。

 1つは、「史上最大規模の不法移民強制送還」の実現を掲げたトランプ政権下の大規模な移民取り締まりです。国土安全保障省のもとに移民・関税捜査局(ICE)という不法移民の摘発、拘束、強制送還などを主な任務とする法執行機関があり、不法就労や国境付近での取り締まりで強大な権限を持っています。2026年はじめから、米移民・関税執行局(ICE)による大規模な不法移民摘発がミネソタ州などで強化され、4000人以上が逮捕されました。その強引な取り締まりにたいして全米規模で批判、抗議行動が繰り広げられました。ミネソタ州ミネアポリスではICE職員の発砲で市民2人が死亡する事件が発生したのをきっかけにトランプ政権の厳しい移民政策への抗議デモが全米1000か所以上に拡大しました。 政権の移民問題への対応への世論の支持は、ことし2月のロイター・イプソスの世論調査では支持が38パーセントで、トランプ政権発足以来最低でした。

 2つ目は、トランプ大統領の関税政策の強行です。トランプ政権は昨年4月2日、米国への全輸入製品に一律10%の基本関税を設定し、各国の関税や非関税障壁、「そのほかの不正行為」を全て加味して税率を上乗せする「相互関税」を課す方針を発表しました。その大統領令で「米国の巨額かつ恒常的な貿易赤字に寄与する貿易慣行を是正する」として、この日を「解放の日」と宣言しました。しかし連邦最高裁判所はことし2月、「国際緊急経済権限法(IEEPA)」にもとづく「相互関税」は違法であると判断しました。ならばと、トランプは通商法122条にもとづく10%の関税を代替措置として導入しました。それは「巨額かつ深刻な国際収支の赤字」に対処するため大統領が関税を最大15%、150日間課すことを認めるというものです。
 トランプ関税は日本を含め多くの国の経済に大きな混乱をもたらしましたが、米国内経済への影響も深刻です。トランプ関税に伴う物価上昇で、とりわけ生活に困窮者むけに食料の無料配布を行う「フードバンク」には連日、行列ができている様子が伝えられています。家賃や物価の高騰が続き、中間層没落現象も起きています。そのうえ、2月28日に始まった米、イスラエルによる対イラン戦争で、輸送コストの引き上げなどが起きて、多くの企業は従業員採用を無期限にやめ、あるいはレイオフ(一時解雇)を実施しています。

 3つ目は、政権による報道機関攻撃、操作の強化です。トランプ氏がSNS上で、自身の都合の悪い報道を「フェイクニュース」と断定して既存メディアを攻撃、支持層へ直接的に情報をしていますが、既存のテレビネットワークなどの操作も強めています。たとえばテレビでのニュース報道です。以前は三大テレビネットワークのニュース(ABC、CBS、NBC)にケーブルテレビネットワークのCNNが比較的自由にニュース報道をしていましたが、今では、右派・親トランプのFOXニュースが、政権の報道で前面にでてホワイトハウス、ペンタゴンの広報のように「活躍」しています。
 最近、トランプ政権とそれを推進する右翼勢力が、CBSュースへの人事、制作へのクーデター的介入がありました。標的になったのはCBSニュースの看板時事ドキュメンタリー番組「60ミニッツ」でした。2025年12月にバリ・ワイスという親イスラエルと言われる人物がCBSニュースの編集になった直後に、トランプ政権が「テロリスト」などとして逮捕したラテンアメリカからの移住労働者などをエルサルバドルの刑務所で拷問にかけている実態を伝える番組を、放送直前に中止させました。大企業による放送検閲がファシスト的政権を代表しておこなったということで、CBSではジャーナリズムが建前さえも死んでしまったともいわれました。

 最後に、トランプのイラン戦争で、キリスト・プロテスタントの保守的潮流である「福音派」のメディアが大きな影響を影響についても触れておきたいと思います。
 トランプ大統領とヘグセス国防長官は、この戦争を「神の摂理によって実行された」戦争であると、キリスト教右派の言葉で位置づけています。これは歴代の米政権のなかでも珍しいと思います。それを応援しているのがキリスト教右派のメディアです。かれらは「ダビデ王自身は、野蛮だった国への対処としてこの戦争をおこなったのだ」と説明しています(旧約聖書に、シャアライムに近いエラの谷で、後におイスラエルの王となる少年ダビデと、イスラエルが手を焼いていたペリシテ人の凶暴な巨人ゴリアテが戦ったという話で、トランプをダビデ王になぞらえてえいます)。
 ペイトン・アームストロングという研究者は、「右派キリスト教のメディアの代表的人物のなかの幾人かは預言者的な人達がいて、神からの預言、メッセージを聴衆と分かち合っている」とのべています。同氏によれば、トランプ大統領やヘグセス国防長官を支持するキリスト教右派の人たちにとって、イランは単なる戦略的な敵対者ではなく、預言的物語の中に位置づけているといいます。
 イランへの戦争を開始した当時、キリスト教右派のメディアの連中は、この戦争が「終わりの時」すなわちハルマゲドンの合図であると説明し、「預言の成就」だと歓迎し、トランプは「文字通りキュロス大王になる」などと言ってペルシアの王でペルシア帝国の創始者(紀元前600年−529年頃)になぞらえて称賛しているのです。