トランプ・習近平会談をどうみるか
末浪 靖司 ジャーナリスト・日本平和委員会常任理事
北京で何を語りあったか
トランプ米大統領と習近平中国主席が5月14・15両日、北京で43時間にわたり会談した。
トランプの北京訪問は大統領1期目の2017年以来約9年ぶり。両首脳は今回の会談に先だち2025年10月30日に韓国の釜山でも会談している。
トランプは習近平を今年9月24日にワシントンに招待すると表明した。
今回のトランプ訪中で両首脳は人民大会堂での会談とともに、習近平がトランプを北京の名勝・天壇公園などに案内し、同時通訳だけを交えて話し合った。
会談では経済・貿易、AI(人口知能)、半導体、台湾などの両国関係、中東情勢やイラン戦争などの国際問題が議論された。
日本では高市早苗首相が「台湾有事は存立危機事態」と言い、米中が台湾海峡で戦えば、日本が国家安全保障法に定める自衛隊出動の要件になるという。このため米中関係がどうなっているかを明らかにすることが、いっそう重要になっている。
「人民日報」(5月16日付)は「両国元首は中米の建設的戦略的に安定した関係をうちたて、中米関係の新しい位置とした」と述べた。
そのうえで「建設的戦略的に安定した関係とは、節度ある競走で分岐を管理し、平和的で長持ちする安定を維持しなければならない」としている。
中国の王毅外相は、建設的戦略的に安定した関係を構築することがもっとも重要な政治的合意だったとして、「これからの中米関係の指針となる」と述べた。
習近平は「両国はライバルではなく、パートナーであるべきだ」「新時代に共存する主な力になる道を見つけよう」と述べた。ホワイトハウスは台湾には何も触れない声明を読みあげたという(「ワシントン・ポスト」5月15日付)。
「ウオール・ストリート・ジャーナル」(同19日付)によれば、会談では通商問題に多くの時間が費やされ、習近平が「中国は米国の農家から多くの生産物を輸入している。また多くのボーイング機を買っているが、さらに200機を買うことができる」と述べた。
11月の中間選挙で共和党の苦戦が伝えられるトランプが習近平にすり寄る理由は、こんなところにもあるのだろう。
中国の政治状況からみると、習近平は批判勢力を抑え込み、憲法を変えて3期目の国家主席になっているが、民衆はどう見ているのだろう。
人民解放軍の多くの幹部を更迭しなければならなかったところにも批判勢力の存在が暗示されているが、それだけに、トランプとの関係が重要なのだろう。
台湾の状況と国際関係
トランプは首脳会談後の記者会見で台湾問題に触れなかった。しかし会談で話し合われたもっとも重要なテーマは、台湾問題だった。トランプは台湾の頼陳徳政権と約束した兵器売却を、今回の訪中にあたって延期した。しかし、取り消したわけではない。与党・民進党は台湾生まれの政党で、頼陳徳は「中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しない」(2024年5月)と主張する。これに対して中国は民進党を台湾独立勢力と非難し、台湾海峡で軍事演習を繰り返している。
中国革命で革命軍が台湾に進攻できなかったのは、台湾海峡で米第7艦隊に阻まれたからだが、今や中国が台湾問題を横において、トランプ政権との関係を重視している。
台湾ではTSMC(台湾積体電路製造公司)が先端半導体の製造で世界の9割を独占し、トランプの要求で米国にも進出している。
台湾はさまざまの国と民間外交で接触しており、最近もニュージーランドの外務省が同国の国会議員4人の台湾訪問を公表して、中国政府は同国議員の訪中を禁止した。
50年の歴史をもつ中国とニュージーランドの外交関係の新しい事態だが、ここには習近平政権下の中国のイメージが反映している。中国政府は台湾の外交関係に神経をとがらせているが、いま中台統一を強行することを考えているわけではない。
台湾政府は中国大陸沿岸の金門島や馬祖島をいまも統治しており、今ではそれらは台湾島民の観光地になっている。中国当局も容認して、福建省などから多くの観光客が訪れている。
台湾海峡の危機は、米軍が1950年に台湾海峡に入り、中国革命のなかで中国軍の進軍を阻止した経過から、中国と米国のたたかいが長い間続いていた。
1958年の台湾海峡危機では中国軍が金門、馬祖に激しく砲弾を撃ち込んだ。
米中は1979年に国交を回復したが、米国はその直後に台湾関係法を制定し、台湾への兵器輸出を続けている。
米国のイラン攻撃への対応
いまトランプ政権が熱い戦争をしている相手は、中東の大国イランである。
トランプはイスラエルに引っ張られるようにイランを攻撃して、最高指導者モジタバ・ハメネイら政府要人を殺害し、女子小学校を爆撃して175人を死亡させた。
トランプはイランのウラン濃縮を核兵器開発のためと決めつけたが、ウラン濃縮は平和目的のためというのがイランの主張である。
イラン戦争はトランプが中東の民衆の反米感情に対抗して始めた侵略戦争であり、開戦後に停戦を主張しているが、イランは信用していない。
米軍は今もホルムズ海峡を封鎖してイランの石油積出港を攻撃し、石油高騰などで国際社会を危機に陥れている。
中国は、イランをはじめ中東湾岸諸国から、同国が必要とする石油の約9割を輸入しており、イラン政府とは密接な関係にある。
トランプ政権は中国の輸入する石油がホルムズ海峡を経由しているとして、中国に米国の戦争への協力を求めた。ルビオ米国務長官はパキスタンのカラチで王毅外相と会談して、イラン制裁への同調と同国からの石油輸入中止を求めたが、王毅はこれを拒否し、停戦協議を働きけた。
中国がトランプのイラン戦争を冷やかにみる背景には、中東アラブ諸国をにらんだ外交とともに、イラン革命以来の歴史的経過がある。
イランでは1979年に民衆が蜂起して王政を打倒し、イラン・イスラム共和国が樹立された。中国はただちに革命政権を承認して国交を開いた。一方で中国はイランを含む中東地域でみずからは米国と事を構えることがないよう慎重に行動している。
2つの大国の打算と思惑
中国は1949年の中華人民共和国建国直後から東西冷戦下で米国と激しく対立していた。米国は中国がアジア諸国を侵略するという口実で、日本や東南アジア諸国を日米安保条約や東南アジア条約機構(SEATO)などの軍事同盟に引き入れ、米軍が駐留し、冷戦体制を強制してきた。
しかし、米国と中国は1972年のニクソン大統領の訪中を経て1979年に国交を樹立し、首脳外交などで深い関係を持つようになった。いま習近平政権がトランプ政権との関係を重視するのは、GDP(国民総生産)で世界のトップをゆく両国の覇権的地位を維持する思惑がある。
このような米中の動きの背景にあるのは、2つの超大国としての打算と思惑である。
米中両国を合わせると世界のGDP(国民総生産)の28%を占める。
核戦力では、核兵器保有数はロシアが圧倒的だが、潜水艦や航空機で運搬し、いざとなれば使いやすい核戦力では米国が圧倒的で、中国も核保有を増やしている。
トランプは釜山での習近平との会談直前に「ロシア、中国との均衡をはかり、必要となれば核兵器開発に戻る」とのべた(「ウオール・ストリート・ジャーナル」2026年3月30日付)。
国連安全保障理事会で拒否権もつ常任理事国は米、英、仏、ロ、中であるが、そのなかで米中がとりわけ大きな役割を演じている。
第2次世界大戦後、日本が日米安保条約により米国の極東戦略の最前線基地の役割を担うようになった大きな理由として、「中国の脅威」が言われてきた。しかし、米国と中国の首脳が互いの関係をパートナーと言うまでに今日ではこのような主張はもはや成り立たなくなっている。
米中対立の最大の焦点となってきた台湾問題でも、トランプが北京訪問にあたって兵器売却を延期し、1カ月以上たっても実行すると言わないのは、情勢の急速な変化をあらわしている。
イラン戦争による世界経済の混乱に見られるように、「力による平和」で経済社会と諸国民の繁栄を実現することはできない。
こうしたなかで、核兵器の保有や開発の禁止を求める、日本をはじめ国際社会の世論と運動がいよいよ重要になっている。
