第11回核不拡散(NPT)再検討会議の特徴点と成果

                  黒澤 満   大阪大学名誉教授

 今回のNPT再検討会議は、一般的な予想がそうであったように、成果文書の採択に失敗し、今後の方向性についても不明確なまま終了した。まず第1に、会議の背景について、第2に会議における核軍縮の議論について、第3に今後の核軍縮の重要課題について、今回の会議の意義や成果を踏まえて検討する。

 まず、こんにちの核兵器をめぐる国際安全保障関係が大幅に悪化しているという背景には、2つの大きな理由がある。その第1は核超大国が国際法の基本的な規則、原則に大きく違反する行動を取っているということである。その実例の第1は、ロシアによるウクライナへの侵略および他国領土の武力による占領であり、さらにウクライナに対する核兵器の使用の威嚇である。その第2は、米国およびイスラエルによるイランの核関連施設などへの攻撃を中心とする武力攻撃である。これらの行為は、国連憲章第2条第4項で明確に禁止されている武力の行使および武力の威嚇に違反するのである。このように現在の国際社会は、国際法により平和を維持するという「法の支配(rule of law)」が排除され、軍事力によって国際関係を維持しようとする「力の支配(rule of power)」の時代となっている。
 第2の課題は、今年の2月5日に米ロ間の核軍縮関係の条約がすべて消滅し、戦略兵器に関する規制が皆無となったことである。米ソ両国は、核不拡散条約(NPT)が署名された日に、攻撃および防御兵器の制限および削減に関する交渉の開始を宣言し、まず防御兵器に関する「対弾道ミサイル(ABM)条約」を1972年に発効させたが、米国のブッシュ・ジュニア大統領が同条約からの離脱を宣言し、2002年に条約は失効した。また中距離核戦力(INF)条約につき、トランプ大統領が2019年に条約からの離脱を宣言した。
 戦略攻撃兵器にいては、戦略兵器削減(START)条約が1994年に発効し、さらに新戦略兵器削減(新START)条約が2011年に発効したが、後継条約の作成に至らなかったため、本年2月5日に失効し、米ロ間での核軍縮条約は皆無となったのである。

(1)核兵器国の主張

 第2の課題は、これまでの再検討会議では、核兵器国は核軍縮の努力にも彼らの間で一定の合意を作成し、共同声明などで核兵器国の立場を統一し、非核兵器国と交渉していた。しかし今回は、核兵器国同士がお互いに他の核兵器国を非難するという形で、対立する形になっていた。そのため非核兵器国に合同して対応するという従来の姿勢が見られず、会議の失敗の原因となっている。
 米国は、中国について、「中国の不可解で不透明で無謀な核兵器の拡大は、たった15年で数倍に拡大している。中国は軍備競争を駆り立てようとしており、さらに威力の大きい核実験を実施している」と主張し、ロシアについては「新STARTの義務が有効な時期に新たな核兵器を開発した」と述べている。
 ロシアは、「イランに対するイスラエルと米国の攻撃は不正な違法な攻撃である」と述べ、新START条約の遺産を自主的なイニシアティブにより維持しようとするロシアの提案を米国は全面的に拒否した」と述べている。
 他方、非核兵器国は、新アジェンダ連合、非同盟諸国、不拡散・軍縮イニシアティブ、さらに核兵器禁止条約(TPNW)の締約国・署名国などがまとまった形で、優先課題は若干異なるとしても、核軍縮に関する課題を一貫して主張していた。
 中国は、「国際安全保障環境は深刻で複雑な変化を示しており、それは核軍縮のための環境を非常に悪化させている。ある核超大国は国連憲章の目的おおよび原則に反し理不尽にさまざまな場所で戦争を行い、ブロック対立を掻き立てている」と述べている。

2)非核兵器国の主張

 新アジェンダ連合(NAC)は、新STARTが失効したので、それを引き継ぐ合意にむけての交渉の正式な開始が追求されるべきこと、さらに警戒態勢解除、包括的核実験禁止条約(CTBT)の発効、非核兵器地帯の創設を要請している。
 非同盟諸国 (NAM)は、すべての非核兵器国に対して法的拘束力ある消極的安全保証の早期の開始、さらに核兵器の第一不使用を核兵器国に要請している。
 不拡散・軍縮イニシアティブ (NPDI)は、核兵器国に対して、核兵器の一層の削減、信頼醸成と透明性措置の促進を主張し、核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)、CTBT、核リスク低減、核軍縮の検証の強化などを主張している。
 TPNW締約国・署名国は、核兵器の壊滅的な人道的および環境へのリスクは、生命の権利と両立しないものであり、それらは核兵器のない道義的・倫理的な必要物であり、核兵器のない世界を達成し維持することの緊急性の基礎となるものだと主張している。

 第1に、米ロ間の核軍縮が皆無になった課題について、新たに核軍縮条約に合意し、現在の状態を改善する努力が必要である。さらに米国は今後の交渉は、米ロ2国間ではなく、中国を含めた3国間交渉を強く主張している。また米国がNATOを重視しなくなり、英国とフランスの核兵器の増加や他の同盟国への援助などをどう進めるべきかという課題が生じている。
 核軍縮に関する第2の課題は、すでに成立しているがまだ発効していないCTBTの早期の成立である。とくに重要なのは、条約の発効に不可欠な国々の批准であり、未批准である米国、中国、イスラエル、イラン、エジプトの批准と、署名もしていないインド、パキスタン、北朝鮮の署名・批准である。
 第3に必要なのは、核兵器使用のリスク低減であり、会議では多くの国がこの課題に言及した。そこでは透明性の増加や核兵器の管理の強化や軍事的対立の緩和などが主張されている。英国、フランス、カナダ、ドイツ、日本、スウエーデンなど16ヵ国による作業文書では、核紛争のリスクは冷戦の最悪の時期以来のものであり、核リスク低減のための具体的措置を取るべきであるとして、核兵器の全廃が核兵器の使用に対する唯一の完全な保証であること、直近の目標は核戦争の危険に対する措置であり、核軍備競争を回避する措置であり、第6条の目的実現の必要と同時に進めるべきであると主張している。
 第4に、核兵器の使用を法的に禁止する方向が提案されており、その一つは、核兵器を保有しないことを法的に約束している非核兵器国への使用を禁止するもので、一般に消極的安全保証と呼ばれているものである。非核兵器地帯条約は、条約締約国に対して核兵器を使用せず、配備させないという議定書を作成し、核兵国に対して批准を要求している。現在有効な4つの非核兵器地帯条約の議定書に、ロシア、中国、英国、フランスは批准しているが、米国はラテンアメリカを除いて他の条約の議定書には批准していない。