核兵器をめぐる世界の動き

 1分間に130万ドルを費やす戦争   2026.4.15

 米紙「ニューヨーク・タイムズ」(2026年3月21日)が、トランプ政権が要求している莫大なイラン戦費について、その額を教育や医療、国際援助に向けたらどれだけのことができるか、論説コラムニストのニコラス・クリストフ氏の試算を掲載していますので、紹介します。

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 イランとの戦争に私たちが注ぎ込んでいる莫大な金額について、少し考えてみよう。
 国防総省は、この戦争の資金として2,000億㌦〔約32兆円〕(米国の1世帯あたり1,400㌦〔約22万円〕以上)を要求しているが、それですら総費用を過小評価している。
 ハーバード大学の戦争財政専門家リンダ・ビルメス氏は、費用の大部分は後になって発生すると私に語った。例えば、何らかの疾患を発症したり、既存の病状が悪化したりした兵士は、生涯にわたる給付金と医療ケアを受けることになる。ビルメス氏によれば、もし現在の兵士たちが1990~91年の湾岸戦争に参加した兵士たちと同じ割合でこうした給付を請求した場合、それだけで最終的には少なくとも6,000億㌦の費用がかかるという。もちろん、  これらすべてがもたらす人的犠牲は言うまでもない。
 総じて、彼女は今回のイラン戦争が納税者に1兆㌦以上の負担を強いると予想する。
 ここでは、その資金を戦争の代わりに向けるとどう使えるか、いくつかのアイデアを紹介する。私の試算は控えめなものだ。国防総省の報告によると、開戦から6日間の費用は113億㌦だった。この不完全な集計でさえ、1分あたり130万㌦以上に達している。

・この戦争の2週間強分の費用で、年収12万5000㌦未満のすべての米国の家庭に無料の大学教育を提供できる。その費用は年間約300億㌦だ。
・3週間弱の戦争費用、つまり350億㌦あれば、3歳と4歳児を対象とした全国的な就学前教育プログラムを実施できる。
・早期識字教育に取り組む非営利団体「ファースト・ブック」のカイル・ジマー氏によると、7,500万㌦、つまり戦争費用の1時間分あれば、貧困ライン以下の生活を送る全米の子供たちに本を3冊ずつ無料で提供できる。研究によれば、こうした本は子供たちが読書に親しむきっかけとなり、将来の成果を向上させるのに役立つことが示唆されている。
・米国では平均して2時間に1人の女性が子宮頸がんで亡くなっている。ワシントン大学の子宮頸がん専門家リンダ・エカート博士によると、無保険の女性全員に必要な検診を行うにはおそらく10億㌦の費用がかかるが、それによって数百人の命が救える可能性がある。これは戦争費用の13時間分にも満たない金額だ。
・米国では、眼鏡を必要としているにもかかわらず持っていない低所得層の児童230万人全員に眼鏡を支給できる。この事業に取り組む非営利団体Vision to Learnによると、基本費用は約3億㌦。この費用は、この戦争の4時間分だ。
・年間約340億㌦、つまり戦争の3週間分にも満たない金額で、トランプ政権が昨年失効させた医療保険補助金を復活させることができる。ある分析によれば、その失効の結果、米国で8,800人の予防可能な死者がさらに出るとの予測がある。

 戦争資金の一部を海外に配分すれば、さらに多くの命を救うことができるだろう。実際、戦争開始から最初の3日間で費やした金額は、2025年の人道支援費の総額(40億㌦)を上回っている。国際的に何が達成できるかを考えてみよう。

・寄生虫駆除に取り組む非営利団体Evidence Actionによると、4億㌦以下、つまり戦争の5時間強の費用で、世界中の支援を必要とするすべての子供に駆虫処置を施すことができる。これにより、子供も大人もより強く、より健康になるだろう。
・3億8000万㌦、つまり戦争の5時間分にも満たない費用で、ビタミンA補給を必要とする1億9000万人の子供たちに供給できる。この活動に従事する非営利団体ヘレン・ケラー・インターナショナルによると、これにより毎年最大48万人の子供の死亡を防ぎ、ビタミンA欠乏症による失明を事実上根絶できるという。
・マサチューセッツ工科大学(MIT)のアブドル・ラティフ・ジャミール貧困対策研究所に所属する経済学者エスター・デュフロ氏によると、戦争費の1日分に相当する費用で、厳密に検証されたスクリーニングおよび予防プログラムを通じて、35万人以上の命をマラリアから救うことができるという。
・戦争費の3日分にも満たない43億㌦があれば、重度消耗症と呼ばれる最も深刻な形態の栄養失調をほぼ根絶できる。それにより、年間約150万人の子どもの命が救われることになる。我々は歴史的な偉業を成し遂げることになるだろう。人類史上初めて、大勢の子どもたちが飢え死にすることはなくなるのだ。

 このような数字が決して完全に信頼できるものではないことは承知している――しかし、それは軍事費についても同様である。2003年、ジョージ・W・ブッシュ政権はイラク戦争の費用を400億㌦と見積もったが、最終的にはおそらく3兆㌦かかった。
 さらに、私の試算はイラン戦争の初期費用のみに基づいている。そして、総費用として見積もられた1兆㌦という数字でさえ、現在私たちが支払っているガソリン代の高騰や、近いうちに高騰するだろう肥料や食料の費用を含んでいない。
 もしこの戦費を国内外の必要に振り向ければ、アメリカ人は就学前教育から大学まで教育を受けられ、健康保険にも加入でき、世界中の多くの子供たちが餓死することもなくなるだろう――それでもなお、数十億㌦の余剰金が残るはずだ。
 地球の反対側に爆弾を落とすような政治的意志であれば、我々は金を工面できる。しかし、人々に医療や教育を提供し、破壊ではなく建設を行うための政治的意志は、一体どこにあるのだろう?