「核抑止は妄想」―新たな視点で保有国を追及

―国連総会第1委員会の議論から   2026.1.15

島田峰隆さん「しんぶん赤旗」外信部記者

 2025年10~11月に開かれた国連総会第1委員会(軍縮・安全保障問題)では、被爆80年にあたり、多くの国が核兵器による惨劇を二度と繰り返してはならないと決意を語りました。約1カ月間にわたった議論の最大の特徴は、核兵器禁止条約に参加する国々が新たな視点を示して核保有国の「抑止力論」を批判したことです。核兵器禁止条約の署名国は95、批准国は74に上っています(2025年12月18日時点)。禁止条約を推進する流れが国際政治の本流としてゆるぎなく発展し、核廃絶の議論を主導して保有国を追い詰めていることが示されました。

 核兵器を巡っては極めて危険な情勢が続いています。ロシアによるウクライナ侵略、米国によるイラン核施設への空爆、イスラエルによるパレスチナのガザ侵略など、核保有国が競うように国連憲章や国際法を蹂躙する行動をとっています。このなかで核抑止力をさらに重視し、核兵器による威嚇をますます安易に行うようになっています。
 7月末から8月初めにかけて、ロシアのメドベージェフ前大統領とトランプ米大統領はSNS上で、米国の対ロ制裁を巡り、お互いに核兵器をちらつかせて威嚇しました。トランプ大統領は10月末には、核実験の再開を指示したと発表しました。これに対してロシアのベロウソフ国防相は11月初め、「本格的な核実験」の準備開始で対抗するよう提案しました。フランスは、ロシアの脅威やトランプ政権による北大西洋条約機構(NATO)軽視を口実にして、自国の核兵器を「欧州の核の傘」として活用する構想を示しています。南シナ海などで覇権主義的な行動を強める中国は、現在推計で600発の核弾頭を保有しているとされ、今では米国とロシアに次ぐ核大国になりました。
 国連の中満泉軍縮担当上級代表(事務次長)は、第1委員会の冒頭、「核兵器の配備、質の面での核軍拡競争、核弾頭の量的な拡大」に懸念を表明。「世界の大多数は核兵器の全面廃絶を積極的に追求している。われわれは核廃絶に緊急に取り組まねばならない」と訴えました。しかし核保有国はこの呼び掛けに応えず、議論では核抑止力に固執する発言を繰り返しました。第1委員会は、国連加盟国の6割超の賛成で、核兵器禁止条約への参加を呼び掛ける決議を採択しましたが、核保有国9カ国は今回も、足並みをそろえて反対しました。

 核兵器禁止条約に参加する国々からは、保有国や核の傘のもとにある国々に対して、「核抑止力に対する見当違いの信念」(南アフリカ)があるという批判が相次ぎました。その批判をまとまった形で明らかにしたのが、禁止条約の参加国が発表した共同声明です。
 共同声明は、▽核兵器使用の非人道的結果は国境を越えて広がり、いかなる機関も国家も対応できない▽核兵器使用の非人道性についての認識とそれを防ぐ決意こそが廃絶への道しるべになる―ことを強調したうえで、次のように指摘しました。
 「核兵器は、核兵器を所有しているかどうか、また核抑止力論に賛同しているか反対しているかどうかにかかわらず、すべての国の安全や存在への脅威になっている」「核兵器と核抑止力は、重大かつ現存する危険であり、それがもたらす結果は、すべての国家、全人類が負担することになる」「核兵器が再び使われる危険は、まさに核兵器の存在そのものに起因している。それはすべての国の安全保障にとっての懸念材料だ」
 核保有国は、核兵器は「安全保障の確保」に必要だとして保有を合理化しています。これに対し、共同声明は、核兵器の使用によって安全を保障される国などそもそも存在せず、「安全保障の確保」という保有国自身の論理からみても、核抑止力論は正当化できないし、成り立つ基盤が存在しないと指摘しました。
 ここには、25年3月に開かれた核兵器禁止条約第3回締約国会議が示した核抑止力批判の新たな視点が反映しています。締約国会議では、オーストリアが報告書を発表し、たとえ核抑止力について意見の違いがあっても、それが失敗する可能性は誰も否定できない、失敗すれば国境を越えて壊滅的な結果をもたらす、その意味では安全保障上も通用しない議論だと解明しました。第1委員会の議論では、この角度から保有国への批判が続きましたが、核保有国は正面から反論できませんでした。議論を追っている国際NGOは、「抑止力の妄想」が鮮明になった議論だったと特徴づけました。

 禁止条約の参加国が押し出したもう一つの論点は、〝核保有国は核抑止力論の立場に立つことで核不拡散条約(NPT)体制を破壊している〟ということです。NPTは米英仏中ロの5カ国だけを核兵器国と認め、他の国々の核保有を禁止した不平等条約です。しかし同条約の第6条は核軍縮に向けた誠実な交渉を義務付けており、この条項があるからこそ非核保有国もNPT体制を受け入れてきました。しかし核保有国は、「NPTは核廃絶の礎だ」と繰り返す一方で、核抑止力論の立場から核兵器に固執し、第6条の義務を果たしていません。保有国の姿勢は、国際社会に不満や混乱を広げており、最近のNPTの会議で文書が採択できない要因になっています。

 アイルランドやメキシコなど核兵器禁止条約を推進する6カ国でつくる「新アジェンダ連合」は、「核保有国が核抑止力を重視してNPTの義務に背く限り、NPTは価値を失う危険がある。それは核不拡散の努力に否定的影響を与える」と批判しました。南アフリカは「核抑止力論に賛成する議論は核兵器の拡散を促進する議論に等しい。こうした議論は核軍縮の進展を止め、核兵器のない世界という目標達成を妨げるものだ」と非難しました。

 こうした状況のもとで問われるのが日本政府の姿勢です。日本政府は、核兵器禁止条約への参加を呼び掛ける決議に対して、核保有国と足並みをそろえて反対しました。その他の決議への態度を見ても、禁止条約について積極的な表現を含む決議には、軒並み棄権票を投じています。
 日本政府は「核兵器のない世界に向けた共通のロードマップ構築のための措置」と題する独自の決議案を提出しました。同決議は、「核兵器の全面廃絶を待つ間、核兵器が決して二度と使われないようあらゆる努力を行うよう促す」と述べるだけで、核保有国に廃絶の具体的行動を迫っていません。禁止条約については、採択や締約国会議の開催を「認識する」としただけで、支持も参加も表明していません。
 日本政府の決議に対しては「軍縮の重要な要素である核兵器禁止条約の価値を認識していない」(赤道ギニア)、「核軍縮の進展に条件を付けている」(ニュージーランド)などの厳しい批判が沸き起こりました。最終的には採択されたものの、各国からは17段落にわたって個別の採決の要求が出されました。「共通のロードマップ」を構築するなどと言いながら、実際には「巨大な分断の源」(エジプト)になっているのが日本政府の決議です。  2026年には、NPTと核兵器禁止条約の再検討会議がそれぞれ開かれます。核抑止力論を乗り越える新たなうねりが広がりつつあるいま、日本政府の立場が厳しく問われる年になるでしょう。米国の核の傘からの脱却と禁止条約への参加を求める国民的運動がますます重要になる年です。