オーストリア政府のアレクサンダー・クメント軍縮局長が、原水爆禁止2024年世界大会—広島の開会総会に寄せたビデオメッセージを紹介します。
オーストリア政府 クメント軍縮局長からのメッセージ
今年の世界大会にご挨拶をする機会をいただき、嬉しく、光栄です。ご招待いただいた主催者に感謝します。
今日、核軍縮を語るのは難しいように思われるかもしれません。多くの出来事が軍縮とは正反対の方向に進んでいるからです。もちろん、私は核軍縮を語ることが、これまで以上に重要になっていると確信しています。国際社会全体が、もっと核兵器について考え、語ることが必要です。私は、日本の皆さん、特に被爆者の皆さんが、果たすべき非常に重要な役割があると思います。
最初に、悪い進展があります。
核軍縮は悲惨な状態にあります。NPT条約の軍縮義務と誓約は履行されておらず、無視されています。軍縮の前進のきざしが見られるどころか、核兵器国に核軍縮をやる気があるのかないのか、その兆候さえも見つけるのは困難です。
例えば、2023年の世界の核兵器関連支出が900億米ドル以上に膨れ上がった事実は、何を示しているのでしょう。これは、核兵器と関連インフラの近代化のための投資であり、核兵器に今後も長期的に依存するという意図を示しています。加えて全ての核兵器国が、核戦力の増強を決定しています。
また、一部の核兵器国は、核軍備に新型核兵器を加えるか、さもなければ兵器の数を増やすとともに、製造能力も向上させています。憲法から核兵器禁止条項をなくした国もあります。他国の核兵器の配備を受け入れる国の数も増えています。私たちは、新型の中距離ミサイル配備計画を懸念しています。また、ロシアが違法なウクライナ侵攻のなかで行っている、暗示的だが明らかな核の脅しや威嚇を警戒しています。より広く見れば、核使用を美化するレトリックが叫ばれることで、核兵器使用が「正常化」してしまう危険性があります。
これらの事態は全て、大きな混乱を引き起こし、核紛争のリスクを高めることになります。
ウクライナ戦争でのロシアの核脅迫が核使用へとエスカレートするリスクは、核の分野に最も関連する心配される展開です。しかし日本の皆さんが良く知っているように、これ以外にも、北朝鮮から南シナ海、インド・パキスタン間緊張、中東情勢などは、いずれも核紛争にエスカレートする危険があります。
これは冷戦時代以降見られなかった非常に危険な状況です。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「これまでは極めて幸運に恵まれていた。だが幸運は戦略ではない。今日、人類はたった一度の誤解や誤算だけで、核兵器によって絶滅してしまうところまできている」と、警告しています。
これを変えるには、核兵器と核抑止力を中心とした安全保障の考え方を抜本的に転換するパラダイム・シフトが必要です。核軍縮はまさに核兵器や核抑止の依存から脱却する一つの確実な方法であるべきです。
私たちは国際レベルでこの問題について誠実で、包摂的な話し合いを行なわなければなりません。これは緊急に必要です。なぜなら、核抑止力が機能しなかった場合のリスクや結末を、全人類が被るということを考えれば、抑止力に基づく安全保障のアプローチは、国際社会全体に関わる問題だからです。
核抑止力は国際安全保障に対するリスクの高いアプローチです。核抑止力を織物に例えれば、織物そのものに、曖昧さやリスクが織り込まれているのです。このリスクは地政学的緊張、新しい革新的技術、拡散圧力、核兵器の法的規制枠組みの弱体化などによって、より強調されています。その結果、危機的な状況になれば、それがどのようなものであっても、核抑止力がそれに耐えられるという保証はなく、決して保証することはできないのです。しかも核抑止は脆弱で不安定な心理学的構造をしています。核抑止が与える安全感・安心感は偽りです。誤算、誤解、人間による技術的エラーはいつでも起こりえるのです。
不確実な安全保障のもつメリットと、核抑止力に内在するリスク、核抑止の失敗、核兵器使用がもたらす世界の壊滅的な結末を証明するたくさんの科学的証拠とを天秤にかけて、どちらが重要かを判断する必要があります。このような安全保障アプローチは、核兵器を放棄した150以上の国を含め、国際社会全体にとって重大な脅威とリスクを生み出します。国際的正当性や国際的及び世代間の正義について深い疑問を投げかけます。
私たちはみな、安全保障はゼロサムゲーム(一方が得をした分だけ、相手が損害をこうむる訳者注)にはなりえないし、そうなるべきでないと考えています。しかし、多数派の非核兵器国にとって、核兵器は究極的なゼロサムゲームのアプローチです。核兵器に安全保障の価値があると主張する人々は、国際社会がこのアプローチに抱く正当な懸念を認めるべきです。それより重要なことは、これらの懸念をなくすことに取り組むことです。
残念ながら、このようなパラダイム・シフトにむかうリーダーシップが核兵器国にも、核の傘に依存する国にも欠けています。しかし多数派の非核兵器国の側にはリーダーシップがあります。核兵器禁止条約にも指導力があります。
さて、ここから私の発言の明るい希望の部分になります。
私は先に現在の暗い状況をお話ししました。対照的に、核兵器禁止条約を支持する主張や条約の重要性はいっそう鮮明になっています。TPNWは支持者の核軍縮・不拡散体制を支持する表明であり、目覚ましい取組みです。広く見れば、これは多国間主義、国際法、国際的平和安全保障への貢献です。これが核軍縮体制を強化し、NPT条約の軍縮と不拡散の二本柱の両方を支えているのです。
NPT条約が強い圧力を受けている今、核兵器禁止条約は核軍縮・不拡散体制の重要な補完となるものです。
2022年6月、核兵器禁止条約の締約国はウィーンで開催した第一回締約国会議においてこの新条約の履行にのりだしました。私はこの会議の議長を務め、多くの市民社会組織や科学者、そして最も重要な被爆者や核実験被害者など、いずれも強い関心と決意をもってウィーンに集まりました。その前向きの精神は、会議が下した豊かな内容の野心的な決定に反映されました。
禁止条約締約国は全員一致で重要な文書を採択しました。それがウィーン行動計画です。今後、数年間に締約国はどのように条約を履行し、条約の目標を前進させるのかを示す文書です。
第二回締約国会議はニューヨークで開催され、条約履行の活動は非常に順調にすすんでいます。
禁止条約締約国と市民社会のパートナーらは、いかに核被害者を支援できるか、いかに条約を普遍化するか、いかにより多くの国を条約に加盟させるか、どうやって条約で定めている核兵器廃絶の過程を発展させるのか、核武装国が条約に加盟する準備が整った場合、あるいは整った時点で、それを受入れるためにはどうするのか、などの問題の解決策を練り上げることに努力と時間をかけています。締約国は科学者の集団と条約をつなぐより太いパイプをつくるため科学諮問グルーブを設置し、禁止条約に反対する、政治的動機をもった議論に対処し、反論しています。
端的に言えば、核兵器国が核軍縮のための信頼できる努力を一切行っていない今、禁止条約グループは指導力を発揮し、前に進むための具体的、実践的なやり方で活動しています。
また禁止条約は核抑止の定着している考え方から脱却する道を示しており、今のような時期にはとても重要です。それは理想主義に基づくものではなく、核抑止論が機能しない場合、核兵器がもたらすであろう世界的な壊滅的結末について説得力のある科学的証拠に基づくものです。
禁止条約は核抑止論がいかに不確実性とリスクをはらんでいるかについて強調しています。
核抑止力が本当に機能するのかどうかは、決してわかりませんが、核抑止が失敗することがあることは確実に分かっています。核兵器に関する政策決定は、したがって核兵器の壊滅的人道的結末と人類生存のリスクについての経験や事実に基づいて行われるべきです。不確実な証拠に基づいた核抑止力論で、安定を仮定するべきではありません。
締約国は、このことをウィーンで採択された政治宣言で明確に表明しました。「核兵器は平和と安全保障を維持するには程遠く、強制や威嚇、緊張を高めるための政策の手段になっています。このことから、核抑止ドクトリンの欺瞞性がより鮮明になっています。このドクトリンは、核兵器の実際の使用で威嚇することを前提としており、無数の命、社会と国々の破壊のリスク、世界的な壊滅的結末をひきおこすリスクが高まります」。
核抑止論者らは今後も反対し、政治的、法的に異なる結論を引き出すか、あるいは積極的に禁止条約に反対し続けるでしょう。しかし条約の根底にある議論は深く、正当で、回避できないものです。今日、核抑止論者が条約に強く反対しているのは、この条約が確固としたもので、その根底にある理論的根拠が変革の可能性をもっているしるしかもしれません。
禁止条約はまだできたばかりの条約です。加盟国は少しづつ増え、93か国が調印し、70か国が批准しました。
禁止条約は核の世界秩序によって、権利を奪われた大多数の非核国や核被害者や生存者にも声を与えました。
禁止条約は核兵器や安全保障の問題に、これまでとはちがったアプローチをめざしています。条約は一つの国に核兵器放棄を強制することはできませんが、強力な論旨と科学的証拠を提供することを通じて、核兵器に欠けている正当性、合法性、持続可能性について、説得力のある理論的根拠を与えることができます。禁止条約は核武装国が不安定な核抑止パラダイムから抜け出し、軍縮に向けて具体的措置に踏み出す準備ができた時のために基礎を敷くことができるのです。
この問題について核武装国の指導力は全て消えてしまい、核軍縮のリーダーシップが機能しない暗い現状において、禁止条約はなくてはならない希望の光として重要です。
発言の終わりに日本の市民社会の皆さんの献身と活動に敬意を表します。核兵器の問題に変化をもたらすのは、人々の議論と情報に通じた市民の行動だけなのです。ありがとうございました。
(提供=世界大会実行委員会)
