「『核武装安上がり論』批判」について論議

        山崎 正勝 東京工業大学(現東京科学大学)名誉教授

 非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が11月20日、オンラインで開かれ、東京工業大学(現東京科学大学)名誉教授の山崎正勝さんが、「『核武装安上がり論』批判」と題して報告しました。山崎さんの報告要旨と主な議論の内容を紹介します。(文責編集部)
 

 記事のもう一つの論点に、日本の原子炉(軽水炉)で生成されるプルトニウム(原子炉級プルトニウム)で核兵器が作りうるかというのがありました。私は、原子炉級プルトニウムでは、少なくとも長崎原爆のような爆発威力は期待できないと思っています。日本の原子炉関係者の大多数もそのように考えています。
 この問題については、マンハッタン計画に参加して、その後、ロスアラモス研究所の水爆の理論部門のトップになったカーソン・マーク氏が書いた「原子炉級プルトニウムの爆発的特性」という1990年の論文があります。マーク氏は、公表された資料だけを根拠にして立論を行い、プルトニウム239がほとんどを占める兵器級のプルトニウムに対して、原子炉級プルトニウムでは大きな爆発にならないとしています。それは原子炉級プルトニウムには、自然に核分裂を起こし中性子を放出するプルトニウム240を18~30%含むため、長崎原爆のような起爆方法(爆縮)だとプルトニウム燃料が臨界に到達する前に核反応が始まって爆弾が壊れてしまうからです。マーク論文では、原子炉級プルトニウムの爆発の規模は、兵器級の数%程度とされています。
 マーク論文は結論で、原子炉級プルトニウムの爆発力は兵器級のものに比べて小さいとは言っても、テロリストの手に渡れば、脅しや破壊の手段になるので、管理には十分注意しなければならないとしています。
 一部には長崎原爆とは違う現代の高度な起爆技術を使えば、原子炉級プルトニウムでも兵器級プルトニウム同等の爆発効率が得られるという主張があります。しかし、そのような高度な技術を説得力を持って具体的に示そうとすると、それ自身が高度な軍事研究となり、秘密の研究になっていくように思います。私たちは、どのような研究でも、原子力関係の研究では「公開」の原則に反する研究をしないようお互いに努力していくことの方がより重要だと考えます。
 まとめですが、一つは、参政党の核武装論は、いわば政治の戯画化でとんでもない話ですが、それがネット世代には受けている面があり、注意が必要ということ。二つは、核武装には最低年1兆円のお金が必要であること、三つは、原子炉級プルトニウムでは長崎原爆は作れないということになると思います。

主な議論

 ●1980年に出た「核兵器の包括的研究」(服部学監訳)という国連事務総長報告には、爆発はするが兵器級のプルトニウムを使った場合ほどの正確さをもって予測できないとある。連鎖反応は、例えば60回連鎖反応が60世代起こるとして、最後の5世代くらいが全体のエネルギーの99%以上を占めるが、事前爆発が起きて最後の5世代に到達する前に核分裂の連鎖反応が始まって、爆発のエネルギーで飛び散って壊れてしまうので低威力のものにしかならない。

●1962年にイギリスの黒鉛炉でコールダーホール炉の使用済燃料を使って核爆発の実験をしたが、軽水型原発との燃焼度が全然違って10分の1以下の燃焼度で核爆発をして、威力がどのくらいだったかはわからない。一度やったきりなので、やはり有効性としては役に立たないと判断したと思う。

●原子炉級プルトニウムは兵器級プルトニウムよりも20倍ぐらい放射能が強い。プルトニウム239が6割弱くらいで、残りはそれ以外の同位体になる。放射能が強いという点で、専門家を加えて研究開発して作るのであればもっと純度の高いもので兵器を作って管理することになると思う。

●発電用の原子炉で作ったプルトニウムは軍事的に使いようがないと思う。爆発するかわからないものを戦略兵器としては使えない。核兵器は戦局を一変する、あるいは戦争自体を終結させる戦略的意図で使うのだから確実に想定通りの軍事的な効果を上げなければいけない。そのためにアメリカなども核兵器としての精度を保持するために未臨界核実験で核爆発のシステムの総点検を繰り返しやっている。
●高速炉の外側にあるブランケットはウラン238がほとんどでそれに中性子をあててその結果プルトニウム239になる。これを原子炉の中に長く置かないで、どんどん取り出して再処理すると放射能も高くならないので、核兵器に使いやすいプルトニウムを取り出すことができる。高速炉あるいは高速増殖炉の開発のときには、そこだけは誰も触れず、あくまで取り出したものは炉心のプルトニウムと混ぜて次の原子炉の燃料にして使うと言っている。
●現代の兵器設計技術をもってすれば兵器級プルトニウムと変わらない核兵器ができると言われても、現代の兵器設計技術がどんなものかは核兵器研究を実際にやっている人たちでないと示すことはできないので推測に過ぎないのではないか。

●六ヶ所再処理工場にあるプルトニウムで核兵器が作れて、日本はいつでも核兵器を持てると思っている人がかなりの割合でいる。
●10年ほど前に、某反核団体が40tのプルトニウムを8㎏で割って5000発に相当するものを日本は持っていると言っていた。それは兵器級のプルトニウムと原子炉級のプルトニウムの違いを理解していない議論で、そう単純なものではないと話したら、それ以来その話はしなくなった。ただ誤解している人はいっぱいいると思う。
●2006年12月25日付の産経新聞の一面トップに核弾頭の試作に3年以上、費用は2000億から3000億円とあり、3面には政府文書の要約が出ている。現物を手に入れて書いていると思うが、国民に秘匿した形でやられてきているのではないか。
●軍事ジャーナリストの小川和久さんは、核武装は日本の軍事的自立を意味しており、実現するには敵基地攻撃論と同様に日米同盟の解消が前提となり、年に20兆円規模のコストを負担しなければならないとして、結論的には「日本核武装論」は机上の空論に過ぎないと言っている。また、日本が核抑止力を保持しようとしたら、地勢学的にも海上戦略だけで、要するに原子力潜水艦だと。いま、日本の抑止力を保持しようと思ったら、原子力潜水艦しかないということで動きが始まっている。参政党の議論だけではなくて、底流にある危険な動きも見過ごせない。
●毎日新聞社の『コストを試算! 日米同盟解体 ―国を守るのに、いくらかかるのか―』では、日米同盟は解体して、日本が自立した軍隊を持ったらいろいろと負担が増えると言っている。例えば、核不拡散条約(NPT)加盟国である日本が国際原子力機関の厳しい査察を受けながら、秘密裏に核兵器開発を行うことは到底不可能で、NPTを脱退した結果、原子力の平和利用に関する国際支援が得られず原子力発電が止まる。さらに脱退に対する国際社会の制裁、とくに食糧自給率が低い日本が受ける経済的食糧安全保障の打撃は計り知れない。日米原子力協定のもとで非核兵器国として例外的に認められていた核物質の濃縮と再処理は困難となり、プルトニウム等製造可能な核燃料サイクルは維持できない。さらに唯一の被爆国として軍縮分野で積み上げてきた日本の国際的評判は失墜し、北東アジアにおける核軍拡競争を刺激し、北東アジアで孤立する。外交的に孤立する。アメリカの庇護を受けられないから装備品等の調達、兵器システムなど莫大な経費がかかる、など。だから、結局、核武装をすると計り知れないコストがかかり、安全保障や軍事だけの問題では済まないことをもっと議論した方がいい。