「大軍拡・日米軍事一体化の口実としての中国・台湾問題」をめぐって論議                 末浪 靖司 ジャーナリスト

 非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が4月21日、オンラインで開かれ、ジャーナリストの末浪靖司さんが「大軍拡・日米軍事一体化の口実としての中国・台湾問題」と題して報告しました。報告の要旨を紹介します。
 

 石破茂首相とトランプ大統領が3月6日にワシントンで会談して出した日米共同声明は、日米安保条約、日米防衛協力の指針をもとに、インド太平洋地域での役割を再確認し、台湾海峡の平和と安定を強調しました。
 米国防総省の3月30日のホームページでは、ヘグセス長官が「インド太平洋地域における信頼できる強力な抑止」を強調し、日本は西太平洋における緊急事態の前線に位置していると述べています。
 3月30日に行われた中谷元・防衛相とヘグセス長官の会談について、防衛省ホームページは、総論は「自由で開かれたインド太平洋のために両国が緊密に協力する」としていますが、地域情勢では東シナ海、南シナ海における中国の現状変更の試みに反対し、台湾周辺での中国軍の動向に留意すると強調しました。
 インド太平洋地域と言いますと、アメリカ大陸のカリフォルニア州からアフリカ大陸の東海岸までの広大な地域になります。そこでのアメリカの軍事態勢を強化する、その口実として、台湾問題を強調するという位置づけになっています。

 陸海空の3自衛隊を一元的に指揮する常設「統合作戦司令部」が3月24日に発足しました。
 日本は、憲法9条が「陸海空その他の戦力はこれを保持しない、交戦権はこれを認めない」と定めているもとで、これまで陸海空の自衛隊を一元的に指揮する司令部を持つことはできませんでした。
 しかし、岸田文雄内閣が2022年12月に閣議決定した安保3文書のうち、「国家安全保障戦略」では、中国がいかに日本にとって危険な存在になっているかということを詳しく書くとともに、「国家防衛戦略」では「脅威圏の外から対抗するスタンド・オフ防衛能力を抜本的に強化する」としました。そして、「防衛力整備計画」では、「常設の統合司令部を速やかに創設する」と書かれました。
 憲法は軍隊を保持することも交戦することも禁止しているのに、自衛隊をインド太平洋地域に送り出して、米軍とともに戦争できるようにする、その口実にしているのが台湾海峡の問題なのです。

 中国は台湾に攻めこむのでしょうか。
 中国は台湾に対して厳しい態度をとっています。いまの民進党の頼清徳政権に対してはとくにそうです。3月17日付の「人民日報」海外版は、「頼清徳は『台湾は一つの独立した民主主義国家である』などという妄言を弄した」と書いて、激しく非難しています。
 中華人民共和国が1949年に生まれて80年近くになりますが、日本のマスコミなどでは中国が台湾に攻め込むと言われています。それは当然なんです。中国革命では、中国共産党が台湾を含めて統一するつもりだったのですが、朝鮮戦争が起きて米軍第7艦隊の艦船が台湾海峡に入り、中国軍は台湾進攻を断念せざるを得なかったという経過があります。中国としては台湾を解放する建前を捨てることはできないのです。
 一方、今では台湾は民主主義が発展して、科学技術も進歩しています。
 例えば先端半導体の生産です。蔡英文総統のときですが、先端半導体は世界の9割を台湾が生産していると言われました。
 トランプは、先端半導体世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)をアメリカに誘致したいと半ば脅迫的に言い、TSMCはアリゾナに工場を作りました。
 習近平は、3年ほど前には10年以内に台湾を解放すると言っていましたが、今はもう言わなくなっています。習近平がやっているのは、いかに台湾の人たちと仲良くするか、そして台湾の企業をいかにして誘致するかということです。台湾の企業も中国の大陸に進出しているのが実態です。
 ですから中国は台湾には攻め込むことはできないと思います。しかし、台湾の頼清徳総統が中国に対する敵対心をギラギラさせているので、中国は黙っていることはできないということでやっています。これがまた日本の防衛省や軍部、マスコミには非常に都合がいい状況になっています。

 トランプは、バンス副大統領、ルビオ国務長官、ヘグセス国防長官という、対中国タカ派を軍事・外交関係などの重要閣僚に据えました。これは、アメリカの国民向けのトランプの戦略だと思います。なぜかと言いますと、私もアメリカでしばらく暮らしていたことありますが、とにかく中国は怖いというのが、アメリカの世論に定着しています。共和党であれ、民主党であれ、中国の悪口を言えば選挙に有利になるということになっているわけです。
 一方、トランプと習近平の関係ですが、トランプは2期目の大統領に就任した日に100日以内に北京に行くと言いました。アメリカ国内では中国を悪く言いながら、やはり行くつもりだと思います。習近平はトランプにまだ返事をしていませんが、王毅外相をルビオ国務長官と会談させるなど、いろいろな形でアメリカに秋波を送っています。
 中国の新聞「文匯報」は2月12日付で「テスラの超能力工場が2月11日、上海の自由貿易地域で正式に開業した」と書きました。自動車大手テスラの社主であるイーロン・マスクは2025年2月7日に李強首相と中南海で会談したとも書いています。
 中南海はかつて清朝の皇帝が住んでいたところで、いまは中国共産党首脳部の本拠地があるのですが、李強首相がマスクをそこに呼んで会談したというのは、それほど中国がマスクを大事にしているということだと思います。
 なぜかと言いますと、マスクが持っている電気自動車のノウハウを中国が得たいということもありますが、やはりトランプとマスクの関係が親密ということがあります。
 トランプ大統領はマスクを大事にしていますが、そこには対中国戦略もあると思います。マスクは大統領選挙で357億ドルという巨額の資金をトランプに提供しました。そんなマスクが中国政府と繋がっている。ここにも今の米中関係の実態があらわれているのではないかと思います。

 アメリカと中国は激しい覇権争いをしています。アジア太平洋地域では、例えばASEAN諸国には中国は外交関係を強化しており、アメリカはなかなか食い込めない状況です。
 いま米中が一番激しく覇権争いをしているのはアフリカ大陸です。アフリカではクーデターがいろいろな国で頻繁に起きていて、そのたびに軍事政権が生まれています。
 そうした軍事政権も取り込んで進出することも、米中それぞれの眼目になっています。アフリカ大陸には、コバルトやダイヤモンドなど工業に欠かせないような資源が埋蔵されています。そんなこともあって、アフリカでも自己の勢力を大きくしたいと覇権争いをしているわけです。
 そのように覇権争いをしながらも、アメリカと中国は戦争をしない、うまく折り合っていくというのが、トランプ政権と習近平政権の関係ではないかと見ています。