「『核抑止』の克服は、全ての国の安全保障への道―核兵器禁止条約第3回締約国会議を踏まえて」をめぐって論議 笠井 亮 日本共産党前衆議院議員
非核の政府を求める会核問題調査専門委員会の例会が5月15日、オンラインで開かれ、「『核抑止』の克服は、全ての国の安全保障への道―核兵器禁止条約第3回締約国会議を踏まえて」について論議しました。報告者は日本共産党前衆議院議員の笠井亮さん。笠井さんの報告(要旨)を紹介します。
◆「核兵器のない世界」へ熱気あふれる
被爆80年に開かれた核兵器禁止条約(TPNW)第3回締約国会議(3月3日~7日)には、87カ国の政府(オブザーバー含む)、市民社会から163団体、国会議員は13カ国22人(うち日本から6人)が参加しました。会議では、発言や様々なやりとりの場で、とくに女性と若い世代の活躍が目立っていました。またも日本政府が不在の中、唯一の戦争被爆国民の願いを伝える立場で日本共産党を代表して吉良よし子参議院議員と私が参加しました
核使用をめぐる危険の増大のもとで、こんどの会議では、条約を前に進めて、「核兵器のない世界」を実現しようという熱気があふれていました
この会議に対して吉良、笠井の連名で、①被爆者の証言の機会、②「核抑止」論克服の取り組み、③被爆者と核実験被害者支援の具体化を柱にした要請文を出しました。アカン・ラフメトゥリン議長(カザフスタン)は「よく読んで考慮します」と対応しました。
全会一致で採択された「政治宣言」は、第1項で「核兵器が人類にもたらす存亡の危機に対処する揺るぎない決意を再確認」し、第3項で「TPNWは、こうした激動の時代における希望の光である」、第27項では「核兵器のいかなる使用や使用の威嚇も、国連憲章を含む国際法に違反し、国際人道法に違反し許されない」として、「明示的であろうと暗黙的であろうと、またいかなる状況であろうと、あらゆる核の脅威を明確に非難」しました。第39項では「核兵器の明確な否定を唱え続け、核兵器廃絶のために絶え間なく努力する」ことを盛り込みました。宣言の最後にも重ねて、第40項で「締約国はエスカレートする核の危険に立ち向かうという揺るぎない決意において結束をしている」と締めくくったわけです。この宣言が出されて、日本の運動のさらなる飛躍と、市民社会と諸国政府との共同の発展がいよいよ重要になると痛感しています。
今回の会議のハイライトは、日本被団協のノーベル平和賞受賞です。冒頭のハイレベルセッションで濱住治郎事務局長代行が、「原爆は本人の未来を奪い、家族を苦しめる悪魔の兵器」「生まれる前から被爆者という烙印が押されている」「核兵器は極めて非人道的な兵器であり人類とは共存できない」とスピーチし、満場の拍手で沸きました。「政治宣言」は「ノーベル平和賞を受賞したことを祝福する」と述べました。
◆「核抑止」の克服、核兵器の廃絶こそ
第3回締約国会議で大きな焦点になったのが「核抑止」の克服です。オーストリアがまとめた「核兵器禁止条約にもとづく国家の安全保障上の懸念に関する協議プロセスの調整者による報告書」が提出され、「核抑止」論を克服する新たな挑戦が行われました。
一言で言うと、「核抑止」がヒロシマ・ナガサキの再現を前提にしていることで、人道的に認められないだけではなくて、安全保障上も誤っているという批判です。報告書をまとめる中心的役割を担った関係者は、「この報告書の強い点は、論争的でなく事実にもとづいて、『核抑止』の立場にたつ国々とも対話ができるようにしていることだ」「非人道的だという議論だけでは前進できない。人道上も安全保障上も議論しなければならない」と力説していました。安全保障のためといっている核固執勢力とかみ合って議論しなければならないとして、そういう点では「日本での議論にも役立つと思います」と話してくれました。
この報告書をめぐって一般討論では、オーストリア自身が「『核抑止』は幻想の安全保障」、ナミビアが「核抑止力の依存は、われわれ全員を危険にさらすだけだ」、南アフリカが「非核兵器国、依存国の間で『核抑止』論がますます重視されていることは遺憾だ」「抑止のパラダイムを核軍縮のパラダイムに変える必要がある」と発言しました。
◆各国議会で「核の傘」乗り越えよう
初日の国会議員会議で吉良議員は、「『核抑止』が失敗する可能性に議論の余地はなく、なにより核兵器を使用し、広島・長崎の惨禍を繰り返すことは許されない」と演説。私も「1962年のキューバ危機で、世界は核戦争の瀬戸際に立たされた。幸いにも危機は回避されたが、核使用が前提の『核抑止』政策は、全人類の安全を危険にさらす。それは軍拡競争をつくりだし、仮に抑止が破綻した場合、全世界にとって取り返しのつかない大災厄をもたらす」とのべました。
今回、米国の「核の傘」下にある国の政府オブザーバー参加はオーストラリアだけで、NATO加盟国政府の姿はありませんでした。国会議員会議では、NATO加盟国で政府が会議参加してきたドイツやベルギー、ノルウェー、さらにイタリアの議員から「核抑止は安全保障戦略ではない」「狂気の道だ」「軍拡をエスカレートさせるもの」「人類の生存のために核兵器はなくさないといけない」「核なき世界こそ安全保障」という発言が相次ぎました。各国議会で「核抑止」に反論して乗り越えようとエール交換する見事な会議となりました。
3日目の条約参加国をどう増やし考えを広げるかという「普遍化」のセッションでは日本原水協を代表して私が発言。「核抑止」論は、「大量破壊兵器による威嚇の別名に他ならない」として打ち破る政策的・理論的解明と被爆の実相の普及の重要性を強調しました。
◆NPT準備委員会でも核抑止論批判が多数に
この会議のあと開かれたNPT(核不拡散条約)再検討会議・第3回準備委員会(4月28日~5月9日)でも「核抑止」論への批判が多数で、核保有国の孤立が深まりました。
TPNW参加国を代表して南アフリカが発言し、第3回締約国会議を踏まえて「核兵器使用の壊滅的な結果は全ての国に影響する」「核兵器の存在自体が使用の危険をもたらす」「『核抑止』論は核拡散を助長し廃絶を妨げる」「核兵器の禁止はNPT第6条の実践と重なる」と強調して、核保有国に行動を求めたのです。オーストリアは、「核抑止」にもとづく安全保障政策は戦争などの予防策にはならず「危険を増大させる」としました。
それに対して核保有国の側は、イギリスが「安全保障状況が求める限り核抑止を維持する」などと主張し、自国の核増強を棚に上げて他の保有国を批判したほか、第6条の義務不履行の批判にもまともに答えなかったということです。
この準備委員会の成果文書はなかったのですが、「議長による勧告」は、「核戦争に勝者はなく、決して戦ってはならない」とし、NPT第6条を実践する義務に言及して、核兵器使用の壊滅的結果に懸念を示し、核兵器禁止条約の発効に「留意する」としました。
◆日本政府こそ禁止条約参加で被爆国の役割発揮を
日本政府は、「我が国を取り巻く安全保障環境の悪化」をあげ、アメリカの「核の傘」への依存を強め、大軍拡と核抑止力強化に踏み出しています。第3回締約国会議に不参加の決定にあたり、岩屋外相は、「核兵器を包括的に禁止する核兵器禁止条約と核抑止は相いれない」などと禁止条約を否定する立場を示し、またも世界に恥ずべき姿をさらしています。
石破首相は、参議院予算委員会(3月27日)で、帰国した吉良議員から「いかなる状況下でも核使用は許さない」と表明すべきだと求められても、あくまで核使用を認めないと明言できない。核兵器の非人道性を認めながら、核使用を前提とした「核抑止」政策をとることとは根本的に矛盾します。吉良議員がきっぱり反論したように、「核兵器の安全保障上の脅威を取り除く最大の保障は、『核抑止』ではなく、核兵器廃絶しかありません」。
来年末にはTPNW第1回再検討会議(11月30日~12月4日)が開かれます。「核兵器のない世界」に向けた唯一の戦争被爆国の役割は、いよいよ重要になっています。被爆80年の原水爆禁止2025年世界大会を成功させ、原水爆禁止運動を盛り上げてきた全国各地から「禁止条約に参加せよ」の声を大きなうねりにしていくことが強く求められています。「朝日新聞」の世論調査(4月27日付)では、「核兵器禁止条約に加盟する方がよい」が73%、「日本は米国の核兵器の力に頼ることが必要とは思わない」が55%。対米外交について「なるべく自立した方がよい」が68%。「日米同盟」絶対で核兵器にしがみ続けていいのかが国民的な大きな焦点になっています。東京都議選と参議院選挙で政治を変え、「非核の政府」への展望を拓く、「非核5項目」を掲げる当会のがんばりどきです。
