「大軍拡に抗する国民のための憲法・財政論」をめぐって論議 小沢 隆一 東京慈恵会医科大学名誉教授・常任世話人
非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が6月26日、オンラインで開かれ、東京慈恵会医科大学名誉教授の小沢隆一さんが「大軍拡に抗する国民のための憲法・財政法論」と題して、『前衛』25.7月号掲載の同論文も引用して報告しました。小沢さんの報告(要旨)を紹介します。(文責・編集部)
◆1、異常な「防衛財源確保法」
出発点としての「安保3文書」
2023年、異常な「防衛財源確保法」という法律が制定されました。そのきっかけは「安保3文書」です。22年12月に閣議決定された「安保3文書」は、きわめて重要な文書ですが、国会での審議もなく大軍拡の方針を決めました。日米ガイドラインもそうですが、この種の重要な決定は、日本のこの間の政治では国会にかけない、「重要すぎる」からこそ国会をむしろスキップするというゆゆしき傾向が目立ちます。安倍政権による集団的自衛権の閣議決定と、その後の安保法制での大騒ぎに懲りたのか、菅政権、岸田政権そして今の石破政権も、重要な決定をなるべく法律問題にはしないで閣議だけで行う指向が強いのです。
税外収入の「かき集め」
「安保3文書」の中の「防衛力整備計画」で、5年間で43兆円が出てきました。今までの防衛予算のほぼ1.6倍です。その収入をどう工面するか、いろいろな税以外の収入をかき集めて、この大軍拡の資金にしたわけです。この方式を取ることになったきっかけは、「安保3文書」をつくる前段で、政府は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者懇談会」を設置し、同懇談会はわずか2ヵ月で「報告書」を出しましたが、そこでは、「増税に頼るな、国債にも頼るな」と釘をさされたわけです。とにかく大軍拡は国債や増税になるべく頼るなというのが有識者懇の報告でした。当時の与野党の議論や国民の雰囲気からすると、そうでもしないと安保3文書は通せないという状況だったと思います。
こうして、大軍拡の資金集めは、がぜん「税外収入」に頼ることになる。いろいろな税外収入からお金を優先的にかき集めてくるというやり方になりました。
財政法44条「資金」の活用による「防衛力強化資金」の意味
そのために財政法44条にある、法律によって「特別の資金を保有することができる」という規定を活用したのです。財政法44条の制度を活用したものは過去20数件ありますが、これまでは数十兆円という凄まじいお金を用立てる制度ではありませんでした。
国家財政の特別会計の中には数年にわたって資金を運用していくことがある一方で、一般会計の中で資金を取り崩しながら使っていくやり方は財務省の資金繰りのための3件とごく少ないものでした。しかも非常に少額であり、使い道も防衛財源のように武器を買うとか、基地建設に使うというような「支出」に充てるものではないのです。防衛財源確保法というのは、防衛力強化資金をつくってそこに巨額のお金をプールして、そして単年度ではなく数年にわたる軍拡用の予算として使っていく仕組みをつくったことが極めて特徴的なものです。
◆2、予算原則を侵す「防衛財源確保法」と「防衛力強化資金」
「予算単年度主義」はクリア
防衛力強化資金というのは1年限りで使い切るのではなく、何年かにわたってお金をプールしておいて支出していくということで、「予算単年度主義」の例外を設けています。
日本共産党の田村貴昭議員は、2023年の衆議院財務金融委員会でそのことを問題にしました。田村議員は、防衛力強化資金で毎年軍拡が行われていくわけですが、複数年度にわたってこの資金から金を出していくことは、毎年予算議決をしてお金を支出していく「予算単年度主義」の原則に違反するではないかと追及しました。これに対して政府の財務省主計局の前田次長は、「毎年の予算で今年はいくらこの防衛力強化資金から支出するかをそのつど決めますから、予算単年度主義の関係では問題が生じません」と切り返しました。防衛財源確保法を読むと、防衛力強化資金は、複数年度にわたってお金を支出するためにプールした資金からいくら支出するのかは、毎年の単年度の予算でその都度決めていく仕組みになっています。
「会計年度独立の原則」の例外
しかし、それだけではすみません。問題は、「会計年度独立の原則」との関係です。予算は、毎年1年ごとに一つの会計年度にして、複数会計年度は持たない。2年とか3年、5年という長いスパンの会計年度を立てるのではなく、一つひとつの会計年度は独立にするわけです。防衛力強化資金はその例外ですが、果たしてこんな巨額な例外をつくっていいのかということです。原則と例外の関係が完全にひっくり返っていることが問題です。
「ノン・アフェクタション」の原則
もう一つは、「ノン・アフェクタション」の原則、これはフランス語なんですが、国家予算は、総計予算主義と言って収入と支出はそれぞれどんぶりにしておかなければいけない。個々の支出を個別に分割して、この収入はこの支出に充てるという収入と支出の個別的な繋がりをつけないという考え方です。予算は、単一予算にするという原則から「ノン・アフェクタション」は出てくるのです。
だからよく言われる消費税は福祉目的税だというのは大嘘です。消費税法の条文に福祉目的税だと書かれてはいるのですが、消費税が福祉目的だけに使われるかというと全然そうじゃないんです。防衛費から何からすべて国家予算の中に溶け込んでいるわけですから、消費税は福祉のためだけに使われるから削るわけにいかないという、石破さんの最近の説明も政治論としては言えても、法律論、財政法論としては大間違いです。
この原則に照らして考えると、今回のこの防衛財源確保法による防衛力強化資金は、いろいろな税外収入をかき集めて運営されているのですが、本来なら教育とか福祉、医療の予算に使っていいはずなのに、防衛費強化資金の中に優先的に組み込まれるやり方なので、これは「ノン・アフェクタション」の原則に違反する禁じ手を取ったと言えると思います。
また、防衛力強化資金は、法律上で「当分の間」これを設定するということで、やめない限り続く恒常的措置なので、2027年以降も続くことになります。第3回締約国会議で大きな焦点になったのが「核抑止」の克服です。オーストリアがまとめた「核兵器禁止条約にもとづく国家の安全保障上の懸念に関する協議プロセスの調整者による報告書」が提出され、「核抑止」論を克服する新たな挑戦が行われました。
◆3、続々たる「財政紊乱」
「後年度負担」の激増
一つは、後年度負担がどんどん増えています。武器を買う契約をした時点では、全部払わない。戦闘機を契約時点で10機調達しても、その年の予算には反映しないのですが、単に隠れているだけで、国家と企業との間では契約ができているのです。後年度負担で高価な武器がどんどん購入されるようになり、見えないけれども、実はすごく軍事費が膨らんでいるのです。
「継続費」の独占的利用
もう一つは、「継続費」の制度です。予算は、毎年税金などでお金を集めてそれでその年に使い切る「予算単年度主義」になっているわけですが、年度をまたいで継続的に使うことができる費目を予算に立てることができる「継続費」の制度が財政法にあります。これを実際に使っているのは防衛費だけで、武器を買うときの費目として使っています。実はこの継続費と武器、軍事費との関係は非常に根が深くて、戦前の明治憲法の時代には、この継続費の制度を明治憲法自体が定めていました。ところが、日本国憲法9条を定めたときに、これは軍事との繋がりが非常に強い制度だということでやめたんです。ところが保安隊ができるときに財政法の改正で復活させて、その後、継続費の制度は自衛隊、防衛省だけが使っているんです。
「建設国債」制度の完全な「悪用」
2023年から防衛省の施設整備費と船の建造費に建設国債を使うようになりました。財政法4条は、公債発行は原則禁止だと定めていますが、公共事業費などに充てる公債、建設国債は発行してよいことになっています。なぜ公共事業の建設国債がいいのかというと、これは消費的な支出じゃなくて、国の資産を形成し、この資産を使って将来いろんな利益が生まれ、元利償還してペイできるからだということで認められているわけです。
自衛隊の軍艦は、公共事業的な役割を何も果たさない完全な消費支出です。本当にひどい話です。
「恐る恐る」の増税措置
財政措置について言いますと、法人税とたばこ税の増税、それと所得税の増税で約40兆円のうちの4分の1ぐらいは何とかカバーしようという目論見だったんです。ところが、「増税するな」という有識者懇の報告があり、やはり国民の反発が強いので、増税については今年から法人税とたばこ税だけやることになりました。自公の与党は、税に頼るやり方は自分たちの票にも跳ね返るので、恐る恐る慎重になっていると思います。
