「核問題をめぐるイラン内外の情勢」をめぐって論議                 宮田 律 現代イスラム研究センター理事長

 非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が8月18日、オンラインで開かれ、現代イスラム研究センターの宮田律理事長が「核問題をめぐるイラン内外の情勢」と題して報告しました。宮田さんの報告要旨を紹介します。(文責・編集部)
 

 2015年に成立した「イラン核合意」は、イランを核兵器製造から遠のけ、今回のイスラエルのイラン攻撃とは異なって外交でイランの核問題を解決するものでした。2002年にイランでウラン濃縮施設が見つかったことをきっかけに、イランが核兵器を持たないよう、15年7月に米英仏独中ロ、欧州連合(EU)とイランが「包括的共同行動計画(JCPOA)」で合意しました。その内容は、「イランは、兵器に転用できる高濃縮ウランや兵器級プルトニウムを15年間は生産せず、(ウランの濃縮度は15年間にわたって平和利用に限られる3.67%までに抑えることが義務づけられた)10トンあった貯蔵濃縮ウランを300キロに削減する。また1万9000基あった遠心分離機を10年間は6104基に限定する。かりにイランが核開発を再開しても、核爆弾一発分の原料の生産に最低一年はかかるレベルに能力を制限する」というものでした。
 その見返りに米欧などは金融制裁やイラン産原油の取引制限などを解除したが、軍事的手段ではなく、外交で核不拡散体制(NPT)を維持した成功例として評価され、ドイツのメルケル首相などは北朝鮮の核問題の解決はイランの核合意をモデルにできるとも発言しました。他方で、イランが条件つきながら核開発を継続できるため、イスラエルなどが反対し続けたが、イラン政府はその電力不足を補うためには原子力発電が必要と考え、あくまで民生用だと主張しました。
 核合意はイランの核兵器開発をまさに「不可逆的」に不可能にするものであったが、トランプ大統領はこの核合意から2018年5月に離脱を表明し、イランに対して制裁を再開する方針を明らかにしました。トランプ大統領はイランとの無用な摩擦を招くようになり、20年1月にはイラク・バグダッドを訪問したイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官をドローン攻撃で殺害しました。
バイデン政権は、イラン核合意の再建を目指し、22年2月にその再建の実現に近い状態となりましたが、ロシアがウクライナに侵攻したことから交渉も停滞するようになりました。
結局、バイデン政権はイラン核合意を再建できなかったが、イスラエルやネタニヤフ首相に甘いトランプ政権が再登場すると、イランの核をめぐる緊張は高まるようになりました。イスラエルのイラン攻撃の当初、ルビオ国務長官はイラン攻撃に米国はかかわっていないと発言したが、24年10月、大統領選挙を前にいがためにトランプ候補は無責任にもネタニヤフ首相にイラン攻撃を勧める発言を行っていました。
イラン攻撃はイスラエル国内を引き締め、ネタニヤフ首相の求心力を高め、彼の政治的延命を図るために行ったに違いありません。またイランの「悪辣な」イメージを強調すれば、国際社会の支持を回復できるという狙いもあるだろう。ネタニヤフ個人の権力維持のために市民の犠牲が出る戦争は断じて許されるものではありません。

 米国のトランプ大統領は25年6月25日、イランの3つの核施設を空爆した。イランの主権を侵害する暴挙で、欧米が批判してきたロシアのウクライナ侵攻と何ら変わりません。
フランスのバロ外相は、「フランスは、この問題の永続的な解決には、核不拡散条約(NPT)の枠組み内での交渉による解決が必要であると確信している」と武力行使への懸念を表明しました。
イギリスのスターマー首相は「イランの核開発計画は、国際安全保障に対する重大な脅威だ。イランが核兵器を開発することは決して許されず、米国はその脅威を軽減するための行動をとっている。私たちはイランに対し、交渉のテーブルに戻り、この危機を終わらせるための外交的解決に達するよう呼びかける」と述べました。この発言はフランスのバロ外相のそれよりも不合理に響くもので、イランはずっと交渉のテーブルに着いていたが、外交交渉の間にイランを攻撃したのはイスラエルのほうで、それに米国トランプ政権が追い討ちをかけて空爆を行ったのです。米国がイランの核開発の脅威を軽減するための行動をとっているとは到底思えません。
トランプ大統領の中東政策は、イランをはじめとする中東諸国に米国との外交交渉が信頼できないものであることを認識させるものであり、イラン国内では反米主張がいっそう定着するようになったと思います。ネタニヤフ首相はイランの体制転換を考えているようだが、米国やイスラエルとの対立を考えるイラン国内の保守強硬派の立場を強化することになったに違いありません。
石破首相は米国のイラン攻撃について政府内できちんと議論すると述べたが、イスラエルのイラン攻撃の際には強く非難すると迅速に表明しています。「米国のイラン攻撃を理解する」などと支持表明を行えば、日本も「二重基準」の不義の国になってしまうので、イスラエルの時のように毅然と非難声明を出すべきです。

 トランプ大統領は戦争を終結させたと言いますが、トランプ大統領の米国とイスラエルによるイランの核施設攻撃は、イランの核兵器開発能力を奪うどころか、イランの強硬派に核兵器への関心を強めさせることになったに違いありません。イランの純度60%まで濃縮されたウラン備蓄400キログラム以上が移動され、核兵器開発に転用される可能性もあると指摘されています。イランは核兵器保有を求めないとずっと言っていたが、実存的な脅威に直面した場合、核兵器に関するドクトリンを変更するとも語ってきました。米国は、核兵器をもつロシア、中国、北朝鮮とは決して戦争を行わないが、核兵器を保有しないイラクやイランには容易に軍事介入しました。「戦争を終わらせた」トランプ大統領は中東地域で新たな核軍拡競争を招いた可能性があります。
今回、イスラエルとトランプ大統領の米国は愚かしい選択を行い、濃縮したウランが行方不明となり、イランの強硬派に核兵器への関心をもたらしました。イランの核エネルギーに関する技術、知識を奪うことなどはできず、核関連施設など何度も再建できるのです。 イランの核兵器の脅威を除くには、軍事攻撃などではなく、2015年に成立したイラン核合意のように、イランに対する制裁の解除と体制の保障を与え、IAEA(国際原子力機関)の査察を継続的に受け入れさせることです。核兵器保有を防ぐには外交的な解決しか手段はありません。