日米首脳会談が示したもの

 竹下 岳 「しんぶん赤旗」編集局・政治部記者 

バイデン政権は岸田首相を称賛

 
 4月10日に行われた日米首脳会談は、とりわけ安全保障分野の戦後の日米同盟の歴史の中で画期をなす重大な内容が盛り込まれています。
 バイデン大統領は、日米首脳会談後の共同記者会見で、岸田首相について「先見的で勇敢な指導者だ。過去3年間において、日米のパートナーシップは真のグローバルパートナーシップになった。勇敢な岸田総理の指導者のもと、それを実現してきた」と称賛しました。共同声明でも「過去3年間を経て、日米同盟は前例のない高みに到達した」「我々がそれぞれ、そして共にわずか数年前には、不可能と思われたような方法で、我々の共同での能力を強化するために勇気ある措置を講じたためである」と、文字通り岸田政権の3年間を称えています。
 私が話を聞いた航空自衛隊元高官の林吉永さんは、「〝かつてない高み〟とは、日本がついに真の意味で『戦争する国』になったということだ。単に米軍の戦争に巻き込まれるのではなく、自らの意思で米軍と一緒に戦争する。だからバイデンは、『勇敢だ』と称えたのだろう」と話しました。それから、インド太平洋軍司令部とも密接に関係を築いている戦略コンサルタントの北村淳さんは、「アメリカの抑止力が著しく低下して、中国軍を封じ込めるだけの戦力を再構築するまで、忠実な番犬である日本を前面に押し出して中国を牽制。万が一、局地的な軍事衝突が発生しても、日本という防波堤で食いとめる」「アメリカ政府や軍関係者は、日本の政府高官・政治家が『アメリカに褒められたい』という卑屈な感情を有していると知っている。だから、今回共同声明で最大限持ち上げている」と、そこに本音があると見ています。

 実際、日本の外務省は、アメリカの外交文書、戦略文書での日本への言及を数えて、自分たちがアメリカにどれだけ評価されているかと判断しているのですから、指摘はその通りだと思います。

 共同声明では、「作戦及び能力のシームレスな統合」や「平時及び有事における自衛隊と米軍との相互運用性及び計画策定の強化」を可能にするため、「2国間でそれぞれの指揮・統制の枠組みを向上させる意図を表明する」といっています。
 自衛隊の統合作戦司令部が来年3月に発足します。陸海空それぞれの実動部隊を束ねる統合作戦司令部の創設に合わせて在日米軍司令部の機能を強化しようということです。バイデン大統領は「日米同盟が始まって以来、最大のアップグレード」だと言っています。
 これまで日米の司令部間の連携というのは、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃などを想定して、「調整メカニズム」など、調整機能という形で深化してきましたが、中国を想定した敵基地攻撃、南西諸島での対中国抑止はより深い連携が必要であり、司令部レベルでは統合が不可欠になるという認識だと思います。
 岸田文雄首相は「自衛隊は独立した指揮系統に従って行動する」と繰り返し答弁していますが、軍事の専門家は次のように言っています。
 陸上自衛隊の元幹部の自民党の佐藤正久議員は、「反撃能力を日本が持とうとすると、目標情報一つとっても、アメリカから相当情報をもらわないと目標情報はとれない。目標情報を日米で共有した後に、この目標は日本が、この目標は日米、この目標はアメリカと目標配分をやらないといけない。さらに、この目標についてはどのミサイルを何発撃つとか、実際にその効果判定もしないといけない」と言っています。『朝日』(3月28日付)で現役の自衛隊幹部は、「共同作戦の実行では米軍の圧倒的な監視・偵察能力、装備に頼らざるを得ず、独立した指揮系統では日本は動けない。今後は岸田答弁がネックになる」と指摘しており、現場の人間は、「独立した指揮系統」との政府の説明がいかに空虚なものかわかっているわけです。
 日本政府も、アメリカ政府も同じですが、「自由で開かれたインド太平洋」という言葉を使うときは、これは基本的に中国に対抗するということを基本的には意味します。だから中国に対抗する上で同盟国と能力を統合するということです。

 インド太平洋軍「統合防空ミサイル防衛(IAMD)ビジョン2028」に関する公式の解説論文では、「インド太平洋軍の広大な管轄では、同盟国やパートナー国が絶対に不可欠であり、地域の同盟国とシームレスに統合する」「シームレスな統合とは、すべてのプレーヤー、すべてのコーチが同じプレーブックを持ち、互いの動きやルールを熟知し、首尾一貫して効果的に訓練し、一緒に作戦を実行する。プレーヤーとコーチは混ざり合い、一緒に訓練し、敵からは準備の整った一つのチームとして見られる」ことだと述べています。ここに言う「プレーヤー」は現場の部隊、「コーチ」は司令部だと見ていいでしょう。
 
さらに重大なことは、そのためには同盟国に「主権の一部を切り離させる」「政府をあげてのアプローチが必要だ」と書いてあることです。具体的には、アメリカに国家機密情報を含めて出せるような立法措置、行政措置を要求しているということです。
 自衛隊が米軍の指揮下に入ることは憲法違反です。しかし日米のシームレス化が進むと、これは有事どころか、もう平時から事実上、アメリカの指揮下に入ることになり、憲法との矛盾、主権放棄・対米従属が極限まで進む危険があります。

 日米軍事産業統合も大きな問題です。
 一つは、武器の共同開発・共同生産・輸出です。昨年12月に地対空誘導弾パトリオットがアメリカに輸出されました。これは形式的にはアメリカ政府がウクライナにパトリオットを提供してアメリカ軍の在庫の枯渇分を埋めるためということです。しかし、アメリカはイスラエルにも地対空誘導弾を輸出しています。間接的であれ、輸出を禁じている「紛争当事国」への輸出になっています。
 もう一つは、ミサイルの共同開発・共同生産です。ミサイルとしか書いていませんが、将来的には敵基地攻撃が可能な長射程ミサイルの開発・生産が排除されないということです。
 さらに、米艦船・航空機を日本の民間企業が修理するということで、日本がアメリカの整備拠点になるということです。その場合、民間企業の技術者・労働者が米軍の機微な情報に接する機会が増えます。機密情報に接する者の身辺調査を行う「特定秘密保護法」の範囲を民間企業にまで広げる「経済秘密保護法」の成立が急がれた背景ではないかと思いました。

 共同声明では、「日米両国は、現実的かつ事前にアプローチを通じて、『核兵器のない世界』を実現することを決意している」と書いてある一方で、「我々は、日本の防衛力によって増進される米国の拡大抑止を引き続き強化する」とし、7月にも東京で行われる日米「2プラス2」で突っ込んだ議論を行います。
 「拡大抑止」とは、一般的には「同盟国に対する核の傘の提供」であり「核抑止」です。「核抑止」の強化に日本が加担することはあってはならないことですが、具体的には、年に2回くらいの日米拡大抑止協議を強化するということ、もう一つは、核搭載可能なアメリカ戦略原潜や戦略爆撃機の寄港が考えられます。アメリカは「核態勢の見直し」(NPR2022)で核攻撃能力を持っている兵器を目に見えるように運用するとしており、中国を念頭に、昨年秋には核攻撃能力を持つ戦略原潜が韓国に寄港し、去年、今年と相次いでB52戦略爆撃機が横田基地に飛来しました。

 日米共同声明は一方で、「我々はまた、ASEAN中心性・一体性及び『インド太平洋に関するASEANアウトルック』=AOIPに対する支持を改めて確認する」と明記しています。これは先ほどの多国間軍事同盟の連携とは対極にあるものです。多国間の軍事同盟というのは、インド太平洋地域においては中国、ヨーロッパにおいてはロシアに対抗する排他的な枠組みですが、ASEANが進めているAOIPは特定の国を排除しない包括的な枠組みです。ASEANは、いろいろな包括的な枠組みを作っていますが、この中には日本、中国、韓国、アメリカ、ロシア、インド、北朝鮮、EUがすべて入っている枠組みもあります。
 共同声明はAOIPへの支持を明記しており、本来、日本が進むべき道はここにあるということです。
 「平和国家」を破壊し、地域の緊張と分断を高める日米共同声明の具体化は許されません。