世界の核兵器の現状
岡田 則男 ジャーナリスト・会常任世話人
はじめに
今日の核兵器開発と核軍拡の大きな問題は、ロシアや中国、イランとか北朝鮮とかにフォーカスされて報道されていますが、アメリカの核開発とか近代化、核戦力の増強が危険だと言う人はあまりいないのです。これは非常におかしいことだと思います。
もう一つの問題意識は、アメリカ、ロシア、中国をはじめとする核兵器保有国が、核兵器使用禁止の世界の流れに真っ向から挑戦するように核戦力の増強にエネルギーを注いでいる現状があります。対立点は核抑止力論で、核兵器禁止条約締約国会議で最も強調され、核抑止論の克服が議論されているわけです。
7月の日米「2プラス2」でオースチン米国防長官が「日本の防衛に対するアメリカの決意は揺るぎない」「拡大抑止は日米同盟の核心だ」と強調しました。拡大抑止に特化した初めての閣僚会合の共同声明では、北朝鮮による不法な核・弾道ミサイル計画、中国による核戦力の拡大、ロシアによる国際的な不拡散体制の毀損などのいっそう悪化する地域の安全保障環境について評価を共有したとし、「日米両国は、同盟の抑止体制を強化し、抑止、軍備管理、リスク低減および不拡散を通じて、既存のおよび新たな戦略的脅威を管理する必要性を再確認した」と、日米関係の中でも具体的な拡大核抑止の話が露骨に出てきています。ー
日米拡大抑止政策は、アメリカの核はアメリカと同盟国、パートナー国を防衛するものとして正当化されるという立場を前提にしていると思うのです。中国や北朝鮮の核開発、核軍備強化を口実にしているわけですが、グローバルな視点で見れば、米ロをはじめとする核保有国の核軍備競争が非常に危険であることを指摘し、まさに核兵器のない世界、核兵器廃絶という観点でこれを批判しなければならないと思います。
SIPRIの年次報告2024「世界の核弾頭」
6月17日に公表されたストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の年次報告2024年では、「世界の核弾頭」は、ロシアや中国でミサイルなどへの搭載が進んでいるとみられ、実戦配備された核弾頭は去年より60発増加し、「人類史上、最も危険な時期のひとつにいる」と警鐘を鳴らしています。
地政学的な緊張が高まる中で、核保有国が核能力の強化を進めているほか、一部の国では核兵器もしくは核の搭載が可能な兵器システムを準備しているとのべています。
数で言うと、2024年1月現在で、核弾頭の世界中の貯蔵合計は推定で1万2121発。そのうち9585発は使用可能な軍事貯蔵分で、その3904発はミサイル、航空機に配備されていると推定され、これも2023年1月よりも60発多く、それから配備されたうち約2100発は弾道ミサイルに対する高度な警戒態勢にあるとのべています。
世界で核弾頭を保有しているとされる国は9カ国で、ロシア、アメリカ、中国、フランス、イギリス、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮ですが、ロシアとアメリカがすべての核兵器の9割近くを保有しています。SIPRIのダン・スミス所長は「冷戦時代の兵器が徐々に解体されているため、世界の核兵器の総数は減少し続けているが、運用可能な核弾頭の数は年々増え続けている」と言っています。全体の総数が減っても、核兵器が使われる条件は大きくなっているということです。
各国の核兵器の状況
中国は、2023年1月の核弾頭の410発から2024年1月の500発へと、他のどの国よりも早い速度でかつてなく増大しています。報道によれば、中国としては初めて少数の核弾頭を平時にミサイルに配備しているということです。SIPRIの上級研究員でもある米科学者連盟のハンス・クリステンセン氏は、「中国は核兵器庫を他のどの国よりも早く拡大している」「しかし、ほとんどすべての核武装国では、核戦力を増強する計画があるか、もしくは強く推進している」と言っています。つまり、どの核保有国も、核軍拡を積極的に進めているこということです。
イギリスは、2023年には核兵器の数量は増加しなかったが、核兵器庫拡大計画があり、今後伸びが予想されるといいます。2021年に核弾頭数の上限を225から262引き上げることを決定し、同時に今後、保有核兵器数量については、弾頭、ミサイルを含めて非公表を決めています。
フランスは、核兵器の近代化を2023年も続け、第3世代原子力推進の弾道ミサイル搭載潜水艦と、新しい空中発射巡航ミサイルの開発を中心にし、さらに既存の兵器システムの刷新と高性能化も進めようという話です。
南アジアのインド、パキスタンについては、インドが核兵器庫をやや拡大し、新しい核兵器運搬システムの開発を続けたとのことです。パキスタンは、インドの核抑止の第1の対象であることに変わりはないが、中国全土の目標に到達可能な長距離兵器をより重視しているとSIPRI は指摘しています。
北朝鮮は、現在まで50発の核弾頭を組み立て、核分裂物質も90個まで増やすのに十分あるとSIPRIは推定しています。2023年には一度も核爆発実験を行わなかったけれども、初めての短距離弾道ミサイル実験を初歩的なサイロから行った。少なくとも2つの型の対地攻撃巡航ミサイルを開発したと指摘しています。
戦争が外交を弱める
SIPRIは、戦争が外交を弱めているとして、核兵器との関連で、ウクライナとガザの戦争が核兵器をめぐる外交をさらに弱めていると指摘しています。
2023年、ロシアは新START条約から撤退したと。新START条約は戦略攻撃兵器をいっそう削減、制限するための措置に関する条約で、米ロ間で最後に残っていた核兵器管理条約ですが、アメリカ側もこのデータ共有をやめたという状態です。
ロシアは西側のウクライナ支援を理由に、核脅迫を続けてきました。2024年5月には、ウクライナとの国境近くで戦術核兵器演習を実施したと伝えられています。SIPRIの大量破壊兵器プログラム担当のウィルフレッド・ワンが「核兵器が冷戦後の国際関係においてこれほどまでに際立った役割を果たすのを見たことがない」「『核戦争に勝者はない、核戦争を戦ってはならぬもの』と核保有5カ国が一緒に再確認してから2年も経っていないのに、信じがたいことだ」と言っています。
2023年にイランとアメリカの核合意が「一時的に両国間の緊張を緩和するように見えたが、イスラエルとハマスの戦争が昨年10月に始まって、この合意がひっくり返された。イラクとシリアでイランに支援されたグループが米軍に代理攻撃をかけ、明らかに、イランとアメリカの外交努力を絶ってしまった。イスラエル・ハマス戦争はまた、核兵器その他大量殺戮兵器のない中東地帯の設置に関する会議にイスラエルをかかわらせる努力をダメにした」ということです。
抑止の中心は核抑止態勢
2022年のNPT再検討会議では、アメリカ並びにNATO同盟諸国とインド太平洋地域の同盟国・連携国にとっての安全、安心、効果的な抑止力へのコミットメントをあらためて確認している、ということで抑止力を正当化している議論が目立つのです。今度の日米「2+2」あるいは「拡大抑止」の会議でもこの点が強調されたと思います。しかし、同時にその抑止への依拠だけでは我々が直面している様々な安全保障上の試練を解決しないと言っていて、核軍備管理も重要であるとか、あるいは外交も重要であるとか言っているわけです。結局、核に頼った核軍事力、核戦力に依拠したアメリカの政策が貫かれていると思います。
