核兵器禁止条約の現状

 山田 寿則 政治経済研究所主任研究員・明治大学兼任講師
・国際反核法律家協会理事 

 非核の政府を求める会核問題調査専門委員会が12月11日、オンラインで開かれ、「核兵器禁止条約の現状」について活発に論議しました。報告は公益財団法人政治経済研究所主任研究員で明治大学兼任講師、国際反核法律家協会理事の山田寿則一さん。山田さんの報告(要旨)を紹介します。(文責・編集部)
 

◆TPNWの批准状況と締約国会合での議論

 核兵器禁止条約(TPNW)の締約国は現時点では73ヵ国です。署名はしているけれども批准に至っていない国を合わせますと94ヵ国で、国連加盟国193カ国のほぼ半分の国がこの条約に法的にかかわっています。
 第1回締約国会合は22年6月にウィーンで開催され、三つの成果が上がっています。一つは政治宣言として「核兵器のない世界へのわれらのコミットメント」と題する宣言が出されました。それにもとづいてウィーン行動計画が採択され、50項目にわたる具体的な行動計画が定められて現在進められています。
 この第1回会合には締約国が49、オブザーバーで34ヵ国が参加していますが、注目されるのはベルギー、ドイツ、オランダなどNATO加盟国も参加しているところです。
 第2回締約国会合は23年11月から12月にかけてニューヨークで行われ、このときも政治宣言が採択され、具体的な手続きを決めた1から5の決定が採択されています。行動計画については、第1回会合の行動計画をそのまま実施すると合意されており、ウィーン行動計画が現在でも生きています。 出席は締約国が59ヵ国、第1回目には来ていなかったオーストラリアなどの核の傘のもとにある国もオブザーバー参加しているところが注目する点です。
 

 第2回会合で採択された政治宣言のポイントは、ロシアの問題やガザの問題も背景にあって、核リスクの悪化であるとか、核使用に至った場合の壊滅的な人道上の影響への深い懸念が再確認され、核使用や威嚇、そして核のレトリック、また核抑止を明示的に非難したというのが特色であると思います。
 この宣言にもとづいて1から5までの決定が採択されています。
 決定1は、「条約実施のための会期間の構造」です。TPNWでは2年に一度、締約国会議が開かれます。第1回目の会合の時から、会期と会期の間において非公式ながら一定のワーキンググループなり、あるいはファシリテーターを定めて議論を継続しようとなっています。NPTは5年に一度再検討会議を開き、その前3年間は準備委員会を開くという仕組みですが、このTPNWはこの会期間制度があることでシームレスに議論を継続する仕組みになっています。
 決定5は「安全保障上の懸念に関する協議プロセス」です。協議の内容は、核兵器を使った結果の被害の甚大さ、あるいはリスクの大きさをしっかりと証明していくと同時に、核抑止の考え方を併記することによって、どちらが正当なものなのかについて説得的に議論しようということです。
 このプロセスを主導しているオーストリアの作業文書では、核兵器を使った結果がこれだけひどい人道上の影響が生じるんだということを我々は言ってきたけれども、核保有国もそれはよくわかっていると言っている。むしろそれは核抑止の実効性を裏付ける証拠として使われてしまっていると指摘しています。
 これに対してオーストリアは、「核の非安全保障並びに核兵器の人道上の影響及びその核リスクに関する説得力のある科学的証拠に関する議論」を提示する必要があると考えているようです。
 

 NPTの第2回準備委員会が24年の7月から8月にかけてジュネーブで開かれ、前年と違って議長要約をまとめることができました。この議長要約の中で、TPNW国側は、核兵器の全面的廃絶におけるTPNWの重要性というのを強調し、TPNWがNPTを補完するものであると強調しているとまとめられています。
 これに対して、核保有国や核の傘の国は、核軍縮を達成するための唯一の実行可能な手段はNPTであり、TPNWではないんだと主張しています。彼らは「核兵器禁止条約は核兵器廃絶に向けた極めて複雑な軍事的、政治的、技術的要請に対応していないため、この条約の軍縮目標に貢献する『効果的な措置』ではない」と述べたとまとめられています。
 国連総会における状況は決議に対する対応を見るとよくわかると思います。TPNW決議は、TPNW が成立した2017年から提起されています。反対国は17年は39で、24年は44と若干増えています。核保有の9ヵ国、そして核の傘のもとにあるNATO諸国、日本、韓国といった国々が反対票を投じています。国連総会の中ではTPNWをめぐって大きな立場の対立があると思います。

 TPNWの内容が国際慣習法化するかどうか。国際法上、慣習法というのは二つ成立要件があることが通説化しています。一つは一般慣行、もう一つが法的確信、あるいは法的信念と呼ばれるものです。一般慣行というのは、共通した実行を取っている国と同じ実行を諸国が広く取っているというものです。核兵器使用に絞って考えますと、広島・長崎以降、実戦での核使用はありませんので、核兵器の不使用という慣習法、あるいは核兵器使用の禁止という一般慣行は存在していると見ることは可能だろうと思います。問題は一般慣行があればいきなり違法になるということではありません。裏付けとなる核兵器使用が法的に禁止されているという信念があり、確信が裏付けにないといけないというのが国際法学における基本的な考え方になります。国際司法裁判所(ICJ)において核兵器の使用威嚇が議論され、1996年に核兵器勧告的意見が出されました。ICJは国連総会決議にもとづいて法的信念の有無というのを検討し、96年の段階では残念ながら法的確信はまだ十分に成立していない判断になったわけです。
 核保有国、NATO諸国が、TPNW に繰り返し反対し、慣習法化しないと繰り返し述べているのは、一貫した反対国の法理を踏まえた行動ではないかと考えられます。
 一貫した反対国の法理というのは、「国際法の規則が多数の国の慣行にもとづいて国際慣習法になることを認める一方で、ある国が当初からその規則に反対し続けていた時は、その規則はその国に対しては対抗できないとするもの」です。

 条約の枠組みを超えて、条約の社会的な規範としての力がどれだけ高まっていくのかは、市民社会や推進国がどれだけ取り組みを進めるかにかかっています。
 毎年、ICANがバンモニターという評価書を公表しています。締約国だけではなく、非締約国、核保有国とか日本など核の傘の国も含めてこの条約に照らしてその行動は適切かどうかを評価しています。ICANとしては、社会規範としてこの条約の規範力を見ているわけです。
 もう一つ、市民社会レベルの取り組みとして重要なのは「核兵器にお金を貸すなキャンペーン(Don’t  Bank on the Bomb)」です。これも毎年レポートが出ていて、どれだけの金融機関が核兵器製造者とかかわっているのかをリサーチし、どれだけの機関がお金を出し、あるいは投資をやめたのか明らかにする取り組みです。
 被害者援助・環境修復も、この条約の実効力という点では極めて重要です。この条約では、核被害者を抱える国は核被害者に対して援助しなければいけないということが規定されています。核被害者援助や環境修復がどのように進むかという点もこの条約の実効力、実効性を高めるという点では非常に重要な点です。

 国連総会で24年9月、「未来のための協定」が採択されました。基本的にはSDGsを推し進める内容がメインですが、その中で「核戦争に勝つことができず、また決して戦っていけない」ことについての明示的な合意が盛り込まれていることが注目される点です。
 今後のスケジュールでは、2025年3月にTPNWの第3回締約国会合があり、4月にはNPTの準備委員会が開かれます。3月、4月で核軍縮に焦点のあたる国際会議が開かれ、26年にはNPT再検討会議があり、ここで次の取り組みが合意できるかどうかが焦点になってきます。
 もう一つの注目点は、今年の国連総会で採択される「核戦争の影響に関する専門家によるパネル」があります。この最終報告書が出るのが27年です。核使用の結果どのような影響が生じるかについての科学的な根拠を示した議論がここで出てきます。同時に「未来のための協定」では、27年から2030年以後の目標について議論することが合意されていますので、2030年以降の国際社会のSDGs議論がスタートします。核軍縮の問題もそこに合わせて議論していくことができるかどうかも大きな将来的な課題です。