核兵器廃絶へ力を発揮する禁止条約 2023.12.15

国連総会第1委員会の議論から

島田峰隆さん(「しんぶん赤旗」ワシントン支局記者)

 2023年10月に開かれた第78回国連総会第1委員会(軍縮・国際安全保障問題)の討論では、21年に発効した核兵器禁止条約が国際法として規範力と実効性を発揮し、核廃絶を求める世界の流れをさらに勢いづかせていることが鮮明に示されました。核抑止力論に固執する核保有国はますます追い詰められています。核兵器禁止条約が世界を変えている、「希望の光」が議場から見えるようなワクワクする第2回締約国会議だったというのが一番の印象です。

条約の未参加国にも影響

 第1委員会は、核保有国のロシアとイスラエルがそれぞれ軍事行動を行う緊迫した情勢のもとで開かれました。議論では核使用の現実的な危険に警鐘を鳴らすと同時に、そういう情勢だからこそ核兵器禁止条約が持つ力を再確認し、参加国を増やし、条約の具体化を進めようという声が相次ぎました。
 核兵器禁止条約をめぐっては、22年6月にウィーンで開かれた第1回締約国会議で採択された宣言と行動計画にもとづいて、作業部会や科学諮問グループが発足し、作業を積み重ねてきました。署名は第1委員会開催時点で、国連加盟国の半数近い93ヵ国、批准は69ヵ国に達しています。
 禁止条約を推進してきたアイルランドやメキシコなどでつくる新アジェンダ連合は討論で「核兵器禁止条約体制の強化」が進んでいるとの認識を示しました。条約の発効と第1回締約国会議の開催を歓迎するにとどめた昨年の発言からさらに踏み込んだ表現です。ここには禁止条約が国際社会に定着しつつあることへの確信が見て取れます。
 今回の第1委員会は、核実験被害者の救済や環境修復に関する新たな決議案を、米国の同盟国も含めた国連加盟国の9割近い171ヵ国の賛成で採択しました。同決議は禁止条約のもとで核被害者援助・環境修復の作業部会の共同議長を務めたカザフスタンとキリバスが、作業部会の議論を踏まえて作成したものです。禁止条約の具体化が未参加国にも影響を与えて、新たな国際的規範をつくり始めている形です。
 核兵器禁止条約への署名や批准を呼び掛ける決議も6年連続で採択されました。東南アジア諸国連合、中南米カリブ海諸国連合、アフリカ・グループ、世界の国の3分の2を占める非同盟諸国などの地域機構が軒並み、禁止条約への参加を呼び掛けました。

核抑止力論へ厳しい批判

 核抑止力論への根源的な批判が次々と出たのも議論の特徴です。
 オーストリアは核抑止力論について「核兵器を持つ者の安全保障をほかのすべての人々の安全保障の上に置くものだ」と非難し、核抑止力論の克服を呼び掛けました。「核兵器の威嚇に信ぴょう性を持たせるなら、人道上の破滅的な結果や地球規模での想像を絶する大量破壊を引き起こす準備をすることが求められる」と述べ、核抑止力論とはいざとなれば核兵器を使用することだと批判しました。
 ニュージーランドは「核兵器が存在すれば、意図的であれ、判断ミスであれ、事故であれ、使われる危険がある。いくつかの国が核抑止力の重要性ということをしつこく主張していることが結局は、他の国々が核兵器を持つという核拡散にさらにつながってしまうのではないか」と批判しました。
 核兵器禁止条約の締約国、署名国が発表した共同声明は「核兵器の使用や使用の威嚇は国連憲章を含む国際法に違反する」と指摘し、核抑止力論への「拒否」を表明しました。
 核抑止力論への根源的な批判が相次いだ背景には、核兵器の非人道性に基づいて核抑止力論を否定する核兵器禁止条約の認識が参加国に共有されていることがあります。
 核兵器禁止条約第1回締約国会議が採択した宣言は、核抑止力論について「核兵器が実際に使用されるという脅威に基づいている」とし、「誤り」だと断罪しました。この認識は23年11月末に開かれた第2回締約国会議で再確認され、深められました。同会議が採択した宣言は「核兵器は、平和と安全を守るどころか、強制や威嚇、緊張を高める政策の道具として使われている」「核抑止を正当化しようとする試みは核拡散の危険性を高めている」と批判しました。

議論避ける核保有国と問われる日本政府の立場

 核保有国は非核保有国からの批判にほとんど正面から答えず、議論を避けています。核兵器禁止条約が国連で交渉されていた段階や条約が採択されてしばらくの時期は、核保有国から条約に反発する声が少なくありませんでした。しかし最近は反論の試みがあまり見られません。この状況自体が、核兵器禁止条約が国際社会に定着しつつあり、核保有国を追い詰めていることを示すものと言えるでしょう。
 第1委員会の一般討論演説とテーマ別討論で禁止条約を正面から批判したのはロシアとイスラエルだけでした。核兵器禁止条約の決議案を採択する時に、米英仏3カ国を代表して米国が反対を表明しましたが、「禁止条約についてわれわれは効果的な軍縮措置とは見ていない」と述べるにとどまりました。非核保有国が指摘する核抑止力の問題点になんら反論することができませんでした。
 こうした状況のもとで問われるのが、唯一の戦争被爆国である日本政府の立場です。日本政府は核兵器禁止条約への署名、批准を呼び掛ける決議に核保有国と足並みをそろえて6年連続で反対しました。討論では核兵器禁止条約には一言も触れず、核廃絶へ「現実的で実際的な努力を続ける」と主張するだけでした。
 日本政府が提出して採択された核兵器関連の決議は、禁止条約について一言触れているものの、支持も参加も表明していません。「核兵器の全面廃絶を待つ間は、核兵器が二度と使われないようにあらゆる努力を行うことと、扇動的な言辞を慎むことを求める」とするだけで、核保有国に廃絶の具体的行動を迫っていません。
 日本政府の決議には当然、痛烈な批判が相次ぎました。南アフリカは「著しくまた意図的に核保有国の義務をあいまいにし、核廃絶にますます条件を付けている」と指摘しました。エジプトは「核保有国の法的義務を撤回するような文言は支持できない」と述べました。 核兵器禁止条約の具体化が進む一方で、核廃絶に逆行する日本政府の異常ぶりがますます浮き彫りになってきています。世界の圧倒的多数の国々が核兵器廃絶の努力を真剣に進めるなかでいつまでも核保有国と同じ立場を取り続けて良いのか。日本政府の姿勢はいっそう厳しい批判に直面することになるでしょう。


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