危機の時こそ核兵器禁止条約が力に
―国連総会第1委員会の議論から 2025.1.15
島田峰隆さん「しんぶん赤旗」外信部記者
2024年10~11月の国連総会第1委員会(軍縮・安全保障問題)は、核保有国のロシアとイスラエルがそれぞれ軍事侵攻を続ける緊迫した状況のなかで開かれました。多くの国は核兵器使用の現実的な危険を直視しつつも、こんな時だからこそ核兵器禁止条約を力にして危機を乗り越えようと訴えました。会期中には日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)のノーベル平和賞受賞が発表され、祝福・歓迎の声が上がりました。
◆非人道性に改めて注目、二つの決議
今年の議論で特に目立ったのは、核兵器の非人道性や壊滅的な被害に改めて注目する動きです。
その一つが、核戦争が引き起こす人体や社会、環境への影響を包括的に研究する専門家委員会を設立する新たな決議が採択されたことです。核兵器禁止条約を推進してきたニュージーランドとアイルランドが提案し、144カ国が賛成しました。
総会決議にもとづいて国連主導で核兵器使用の影響を研究するのは1989年以来、35年ぶりです。国連事務総長が指名する専門家が、気候変動や経済のグローバル化など現代の新たな知見を踏まえた研究を行い、2027年の国連総会に報告書を提出します。
非人道性に関する研究は、核兵器禁止条約の交渉、成立、発効の推進力になってきました(署名94カ国、批准73カ国。12月13日時点)。新たな研究にもとづく報告書が出れば、核兵器の禁止と廃絶をさらに進める力になるでしょう。ニュージーランドの代表は「研究は核のタブーを強化する」と訴え、各国に協力を求めました。
もう一つは、被爆者と核実験被害者への支援を進める決議が昨年に続いて採択されたことです。国土が核実験場にされたカザフスタンとキリバスが提案し、169カ国が賛成しました。
同決議は昨年の決議の内容をさらに充実させたものです。核兵器の使用や実験の被害者への支援、環境修復に関する国際会議を2026年に開くことを提案しました。
キリバスの代表は、核兵器がもたらす被害をめぐって正義を実現するには「核戦争の影響を再検証することが根本的に必要だ」と指摘。前出の専門家委員会設立の決議とも深いかかわりがある決議だと強調して、賛同を呼びかけました。
◆核抑止を批判する国 「目立って増えた」
今回の第1委員会では「核抑止力論に反対する国の数が目立って増えた」(国際NGO)ことも特徴になりました。これまで2回開かれた核兵器禁止条約の締約国会議は、核抑止力論の誤りについて議論を深めてきました。世界の平和と安定を破壊し、核拡散を助長しているという批判です。その流れが第1委員会の議論に反映しています。
各国は「核兵器に関する議論を政治的に利用し続けている間に世界は次の核戦争を目撃する」(タンザニア)など強い危機感を表明しました。米ロや中国をはじめ核保有国は自国の核保有は〝責任ある行為だ〟と正当化する一方、他の保有国の核使用の威嚇や核弾頭の増強については〝無責任だ〟などと非難しあっています。こうした身勝手な議論への怒りの声が相次ぎました。
メキシコの代表は「核兵器に関して『責任ある主張』などというものは存在しない。あらゆる核兵器は忌まわしいものであり、すべての核保有国が無責任だ」と指摘。「核抑止力論は核の危険そのものに根差した議論だ」と厳しく批判しました。
ミャンマーの代表は最近の核保有国の動向を念頭に「いわゆる核抑止力を機能させるために、核保有国は核兵器使用の威嚇をますます現実的なものにしている」と述べました。核抑止力とはいざとなれば核兵器を使うことを前提とした議論であり、核の危機を深めることにしかならないという本質的な批判です。
核兵器禁止条約の締約国は、25年3月に開く次回の締約国会議までに、核保有国の核抑止力論の概念に対抗する報告書をつくることを決めて、研究を続けています。第1委員会での議論からは、核抑止力論を乗り越える力が着実に発展しつつあることがうかがえます。
◆ますます目立つ日本政府の消極性
こうした状況のもと、日本政府の核兵器廃絶への消極性がますます目立っています。
日本政府の代表は発言で、核廃絶には「現実的で実際的な方法」が必要だと繰り返し、核保有国に核不拡散条約(NPT)第6条にもとづく義務の実践を求めませんでした。また7年連続の採択となった決議「核兵器禁止条約」に今年も反対しました。これらは明らかに核保有国の側に軸足を置いた行動です。
日本政府が毎年提出している核兵器関連の決議は今年も賛成多数で可決されました。しかし決議は「核兵器の全面廃絶を待つ間、核兵器が二度と使用されないようあらゆる努力を行うこと」を求める程度です。核兵器禁止条約への支持も参加も表明していません。
日本の決議について多くの国が、核保有国を免罪する内容だと意見をつけました。採決で棄権したエジプトは「核保有国の責任と法的義務を緩和するもの」になっていると指摘。同じく棄権した南アフリカは「核兵器のない世界を実現する目標を引き上げるどころか、核保有国に現状を維持し、すでに合意した約束を再解釈するフリーパスまで与えている」と非難しました。
日本被団協のノーベル平和賞受賞について、日本政府の代表は発言で「意義深い」と指摘するにとどめました。核兵器禁止条約の参加国をはじめ多くの国が「祝福する」と喜びを表明したのとは対照的です。米政府代表でさえ「祝意を表明する」と発言しました。(石破首相は日本被団協のノーベル平和賞授賞式が行われた12月10日、衆院予算委員会で祝意を表明しました。しかし「拡大抑止を否定する考え方を私は持っていない」と述べ、核兵器禁止条約の署名・批准は「極めて困難」だと拒否しました。) 2025年は被爆・戦後80年の節目の年です。これからも米国の「核の傘」にしがみつくのか、核兵器禁止条約に参加して核廃絶を求める被爆者や国民の思いにこたえるのか―日本政府にますます鋭く問われる年になるでしょう。
