核兵器禁止条約が世界を変えている 2023.12.15

第2回締約国会議は実効力、規範力を高めた  唯一の戦争被爆国・日本の参加今こそ

笠井亮さん(日本共産党衆議院議員・会常任世話人)に聞

 核兵器禁止条約が世界を変えている、「希望の光」が議場から見えるようなワクワクする第2回締約国会議だったというのが一番の印象です。この条約が示す方向で各国が力を合わせれば、「核兵器のない世界」に進めるという自信にあふれた会議でした。
 2017年7月7日に条約が採択されてからの6年、直近ではロシアやイスラエルによって核使用の脅迫が行われて、他の核保有国も核戦力の維持・強化を図るという重大な逆流が起こっている中での会議でした。核戦争の現実的な危険という世界の現実の中で、条約は核保有国の手をきつく縛り、核兵器の使用を抑える大きな力を発揮している。条約の実効性と規範力が高めていることを、強く実感することができました。
 第2回締約国会議のフアン・デラフエンテ議長は、メキシコの外交官ですが、開会の冒頭に「いま私たちは受け身で沈黙しているわけにはいかない。核兵器による脅威は現実であり、この国際情勢だからこそ強いメッセージを伝える必要がある。いまこそ、この世界に核兵器はいらないと言うべきときだ」と高らかにあいさつしました。
 会議では、昨年の第1回締約国会議のウィーン宣言と行動宣言を再確認しながら、さらに前進させる「核兵器の禁止を堅持し、その破滅的な結果を回避するための私たちの誓約」という政治宣言を全会一致で採択しました。その冒頭には、「私たち禁止条約締約国は、核兵器が人類にもたらす存亡の危機に対処し、核兵器の禁止と完全廃絶への決意を堅持するため、第2回締約国会議に結集した」と明記されました。

  2017年の条約づくりの国連会議や第1回締約国会議と同様に、日本原水協や日本被団協とともに、私自身も被爆2世の国会議員として、日本共産党を代表して参加して活動しました。私たちは締約国会議やサイドベントで発言し、会議に対する要請を行い、中満泉・国連軍縮上級代表、オーストリア、フランス、ロシア、マレーシア、アイルランドの政府代表、さらに国連日本代表部とも意見交換しました。
 ニューヨーク市内でデモ行進もしました。アメリカの国連代表部は国連本部の真ん前にありますが、通りかかった代表部ビルの中から「スモール・ピースフル・プロテスト」(小さな平和的な抗議)をやっている人たちが外にいる」という小声のアナウンスが聞こえてきたのです。私たちは、ノーモアヒロシマ、ナガサキの大コールをやったので、それが効いたのだと思いました。日本領事館前でも被爆者を先頭に行動しました。
 私は、デラフエンテ議長や各国政府代表に要請文を手渡し、働きかけました。要請内容の一つは、非人道的な結末を警告し、核兵器の使用を許さない強いメッセージを出すこと、二つ目が、核兵器の被害者支援と国際協力の実践を進めてほしい、三つ目に、核不拡散条約(NPT)6条の核軍備縮小・撤廃義務の履行を核保有国に求めるために尽力する、四つ目に、各国政府に「核抑止」論からの脱却を呼びかけ、あわせてウクライナとガザ人道的危機を解決するための国際社会の結束について貢献する、という4点です。
 ロシア国連代表部への要請では、「ウクライナ侵略ではない。脅威に囲まれている我々にとって核兵器を持つことは抑止であり防衛だ」と正当化する次席常駐代表(大使)に対して、私は「明らかな侵略だからこそ国連総会は4度も非難決議を上げたではないか。核抑止とは、いざというとき核兵器を使用し非人道的惨禍を起こすことをためらわない議論だ。あなた方こそ国連憲章と国際法を守って、禁止条約に参加すべきだ」と反論しました。
 サイドイベントとしてオーストリア政府とICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)が主催した国会議員会議で発言し、主にアメリカの「核の傘」に依存する国の国会で条約参加を求めてがんばっている議員たちと意見を交わしました。会議の声明には、「核兵器禁止条約が想起したように、すべての国は国連憲章に従い、武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならない」という私の修正案も盛り込まれました。国会議員会議の声明は締約国会議で読み上げられ、私たちが要請したことが、全体として政治宣言に反映されたという確信を持つことができました。
 国会議員会議では、イタリア議会のボルトリー二元議長(女性)とは、昨年6月のウィーン、今年5月のG7広島サミットの際につづく三度目の再会を喜び合い、「各国議会で被爆者を招致して核兵器の非人道性、いま何をすべきかを議論しよう」という私の発言に、「議会の人権委員長として被爆者を招待することを確約する」と応じてくれました。

 今日の情勢に応じて、核被害者の訴えに耳を傾け、具体化を進める会議となりました。
 核兵器使用の現実的な危険のもとで、核兵器の非人道性をあらためて告発し、「核使用を絶対に許してはならない」という決意を共有しました。被爆者と核実験などの核被害者の発言が会議の随所で行われ、参加者の胸を打ちました。
 会議冒頭のハイレベルセッションでは、日本被団協の木戸季市事務局長が、「ウクライナとガザから伝えられる光景は、被爆者にとってあの日の再来だ」、「原爆が人間を滅ぼすか、原爆をなくして人間が生き残るかの世界です」として、「希望をもたらす会議になることを心より祈念します」と訴えました。
 デラフエンテ議長が「木戸さんのような経験をした人の証言に代わるものはない。核禁条約に参加していない国やオブ参加の国に対して条約への参加を促すもので、正しい方向への一歩となる力強い証言だ」と応じました。グテーレス事務総長の代理として中満泉・国連軍縮上級代表は「核兵器が使用されないようにする唯一の方法は、全面廃絶」であり、第1回締約国会議以降の具体化は「条約が持つ力を証明する動きだ」と明言しました。
 会議では、昨年6月の第1回締約国会議で設置された作業グループが、1年半かけてきた議論の進展を喜び、「米ロ間の核戦争による気候変動で最大50億人が餓死する可能性がある」という科学者グループの報告を真剣に聞き、具体化を進めていくことを決めました。
 とくに深められたのが、「核抑止」論の批判です。政治宣言の17項では「核兵器は平和と安全を守るどころか政策の道具として使われ、強制や威嚇、緊張の高まりにつながっている」、そして19項で「核抑止の永続とその実行は、核不拡散を損ない、矛盾するだけでなく、核軍縮への前進を妨害する」として、次回の会合までに「核抑止」論からの脱却を訴える報告書を、被害者や専門家を含めて議論して作成することを決めました。これは画期的なことで、核固執の最悪のよりどころを打ち破るうえでも大きな力となるでしょう。
 核軍備縮小・撤廃について定めたNPT第6条の義務や核兵器廃絶の「明確な約束」については、政治宣言の24項で「…核保有国は、…核兵器廃絶に向けた真剣かつ誠実な交渉を行うというNPT第6条の法的拘束力のある義務や、NPT再検討会議において合意され、繰り返し表明された核兵器の全廃を達成するという明確な約束を果たしていない」と断じました。25項で「…核兵器の包括的な法的禁止の発効によりNPT第6条の履行を前進させたことをうれしく思う」と、禁止条約とNPTは補完しあうことを確認し、NPTを盾に禁止条約を拒否する核保有国の非難がまったく成り立たないことを浮き彫りにしました。

 条約の第6条は、核被害者支援と環境修復、第7条でそのための国際協力を定めています。その具体化の議論では、被爆者・核実験被害者などの苦しみが今なお続き、多くの人たちが救済されないままになっていることが改めて明らかにされました。
 日本原水協の土田弥生事務局次長が締約国会議で、「広島・長崎では21万人の命が奪われ、占領下で原爆報道が禁じられ、初歩的な医療法が成立するまで12年にわたり被爆者は放置された。ビキニ水爆実験被災では、多くの漁船員が被ばくしていたにもかかわらず、日米政府は、米国による200万㌦の見舞金でフタをし、多くの漁船員は健康を害し、がんが多発、命を奪われ、いまだに調査も支援も補償も謝罪もされていない。救援とともに被害の実相解明、人類と核兵器は共存できないことの普及をよびかける」と発言しました。被爆国日本にふさわしい問題提起として受け止められました。
 締約国は次の会議に向けて、被害者支援や環境修復の計画をつくり、実行すること、そのための国際協力をすすめることなどを確認しました。財政的に援助する「国際信託基金」の設立にむけたガイドライン策定することも決定しました。
 条約が実際に運用され、国際法としての実効性、規範力を高めていることは重要で、一歩一歩、前に進んでいることを実感できる会議でした。

 今回の会議で「ジェンダー平等」のセッションが初めて持たれて、深められたのも禁止条約ならではです。発言した多くの国が、核兵器使用による非人道的な影響が女性や子どもに不釣り合いに深刻に出ると指摘しました。ニュージーランドの政府代表は「条約の実施全般においてジェンダーの視点を据えること、意思決定に女性を全面的かつ平等に、意味のある効果的な形で参加させることを強く支持する」と発言しました。新日本婦人の会の平野恵美子副会長は、「被爆女性は、就職や結婚を断られるなど差別や偏見に苦しみ、流産や死産を繰り返し、出産しても自分自身や子どもや孫への健康不安を抱えて生きている」「女性たちの『核兵器は絶対に使わせない』という行動が『核抑止』論を打ち破る力と確信する」と力強く語り、大きな拍手を受けました。
 政治宣言では、7項で「…私たちは条約のジェンダー条項、および核軍縮には女性と男性の平等で完全かつ効果的な参加が不可欠であることを再確認する」と明記されました。

 今回の会議では、米国の「核の傘」に依存するドイツ、ノルウェー、ベルギー、オーストラリアを含む35カ国のオブザーバー参加と発言が歓迎されました。締約国の南アフリカの代表は、「どの国にも開かれている条約です。いつでも歓迎します」と、新しい国を招くのは道徳的な義務であり、「署名・批准国を広げるのが一番の力。そのために非人道性の認識を世界中で高めよう」と呼びかけて、議論が深められました。
 国会議員会議ではベルギーの議員が、「わが国の政府は、この締約国会議が開幕する20分前に、オブザーバー参加することを決定しました」と発言し、大拍手に包まれました。米下院のジェームズ・マクガバン議員は、「核廃絶には道徳的に大義がある」「各国議員と対話し、核兵器は必ず廃絶できると確信できた。世界中の国会議員と協力したい」と発言し、大きな注目をあびました。
 政治宣言は、4項で「第1回締約国会議以降、条約の普遍化でも前進は続いており、バハマ、バルバドス、ブルキナファソ、ジプチ、赤道ギニア、ハイチ、シェラレオネによる署名、コンゴ民主共和国、ドミニカ共和国、マラウイによる批准、スリランカの加盟の重要性を認識し、温かく歓迎する」と表明。5項で「この条約は現在、93の署名国と69の締約国によって強固なものとなっている。まだ署名していないすべての国に対し、遅滞なく条約に署名し、批准又は加盟するよう、あらためて呼びかける」としたのです。
 問題は日本です。「日本がいないのはおかしい。不思議な国」と、またも締約国会議に背を向けた日本政府への失望が広がっていました。ASEANの外交官や学者らも「日本から市民社会は一杯来ているが、政府はいないよね」と語り合っていたのです。
 このことについて、私は、帰国翌日の12月4日に早速、衆議院拉致特別委員会で報告し、一刻も早い条約参加を求めました。上川陽子外相は、「この条約は出口としては重要だが、核保有国は1カ国も参加していない」と従来の岸田首相の答弁のままで、すべての国に条約参加をよびかけた政治宣言の評価を聞いても「日本は同条約に参加しておらずコメントを差し控える」と繰り返すだけ。唯一の戦争被爆国にあるまじき恥ずべき態度です。

 中満・国連軍縮担当上級代表は、私たちとの意見交換で二つの重要なことを語っていました。
 一つは、「国連無力」論について、「国連は安保理と思われがちだが、十分機能していないのは安保理で、P5(核保有5大国)が拒否権を行使するから。ガザ危機では、安保理で4回否決されたが、ようやく「人道的戦闘中断」決議が、米国が棄権にまわって通った。国連には総会をはじめ他にも多くの顔がある。むしろ国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)などが、ガザの人々のライフラインになっている」ということです。
 もう一つは、日本と核兵器禁止条約との関係について、「北東アジアで安全保障上の重大な出来事が万一あるとき、ASEANは基本的に全て禁止条約の枠組みで動くだろう。そういう時に力を合わせることができるのではないか。核被害者支援・国際協力も禁止条約から始まりNPTでも話され、国連第1委員会では171カ国の賛成で支援の決議が採択されている」「この条約に関与し、対話することは被爆国日本にとってもプラスになる」ということです。

 私たちとの意見交換で第1回締約国会議のアレクサンダー・クメント議長は、「まだまだ次の締約国会議への宿題がある。人道性の議論は引き続き重要、新しい科学的リサーチが必要、安全保障と核抑止の関係も深めるべき」と指摘しました。「外交官だけでは前進させられない。市民社会の役割が決定的で、とりわけ若い世代はじめ広範な人々が声をあげ、核問題に関わってもらうこと。みんなで議論しなければ何も進まない。この条約のいいところは、シンプルさと明確さだ。だから広範な人々に分かってもらえる」としていました。
 政治宣言は、33項で「私たちは、多様な利害関係者が果たすべき役割を認識し、国際機関、国会議員、市民社会、科学者、核兵器の影響を受ける地域社会、核兵器の被害者、金融機関、そして青年との包摂的アプローチによる協力を継続する誓いを新たにする」と特記しています。さらに35項で「私たちTPNW締約国は、核リスクの増大と危険な核抑止の永続化を傍観するつもりはない。私たちは、条約の普遍化と効果的な実施、ウィーン行動計画の履行に断固として取り組む。私たちは、現在および将来の世代のために、核兵器のない世界を実現するために不断に努力する。われわれは、いかなる状況下においても、核兵器が再び使用されたり、実験されたり、あるいは使用の脅威にさらされることがないよう誓約し、そして、その完全廃絶まで休むことはない」と結んでいます。
 次回の締約国会議は、2025年3月3日から7日にニューヨークで開かれ、議長国は核実験で被害を受けたカザフスタンです。閉会にあたってカザフスタンの代表は、核被害者支援・国際協力をはじめ、諸懸案に意欲的にとりくむと表明しました。新しいステージに立った条約を各国に持ち帰って、実践して努力しようということになります。
 日本政府が1日も早く核兵器禁止条約に参加し、唯一の戦争被爆国らしい役割を果たすよう、非核の政府を求める会として、国民的な運動と力を合わせていきたいと思います。


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