沖縄を再び核の基地にさせない 核密約の公表・破棄は急務

竹下 岳(しんぶん赤旗政治部記者)(2023.6.15)

 「核兵器のない世界への決意をG7首脳とともに共有した」。被爆地・広島で開かれた主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)最終日の5月21日、岸田文雄首相は原爆の犠牲者を追悼する原爆碑前で行われた記者会見で、「核兵器のない世界」に繰り返し言及した。初日の19日には、G7首脳がそろって原爆資料館を訪問。バイデン米大統領は、「世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう」と記帳した。
 そのバイデン氏の背後に、核攻撃を指令する通信機器や認証コードなどが入った黒いカバン=「核のフットボール」を持った随行員の姿が目撃されていた。この随行員は、原爆資料館内にも同行していた可能性がある。最悪の場合、広島の、しかも原爆資料館の中から核攻撃を承認する選択肢を保持しながら、「核兵器のない世界」を口にする=。「偽善」という言葉では到底、表現しきれない不条理だ。



 バイデン米政権が昨年秋に公表した「2022核態勢見直し(NPR)」は、核兵器廃絶に言及しているものの、それは「究極目標」だと先送りした上で、「戦略的(核)抑止は国家と国防総省の最優先任務」だと宣言。「予見できる将来において、核兵器は独特の抑止効果をもたらす」「われわれが直面する脅威に対応する核戦力を維持する」として、核弾頭や運搬手段(弾道ミサイル、戦略原潜、爆撃機・戦闘機など)、指揮・通信システムなどで構成される核戦力の「近代化」を進める方針を示した。2022NPRは、「核兵器の役割」拡大を掲げたトランプ前政権とは違い、「核兵器の役割」の「縮小」を掲げているものの、「近代化」が図られている核戦力はいずれも、トランプ政権期から引き継いだものばかりだ。
 さらに、「同盟国を守る」ためと称して、欧州やインド太平洋地域における「拡大核抑止」も強調している。その関連で、G7サミット直前の4月、見過ごせない動きがあった。沖縄県の米軍嘉手納基地への、F15E戦闘機の配備だ。同基地では、昨年まで配備されていたF15C/D戦闘機が老朽化のため帰還し、米本土から代替機のローテーション配備が行われている。これらのF15Eは米アイダホ州のマウンテンホーム空軍基地を拠点とする第391戦闘飛行隊に所属する核・非核両用能力(DCA)戦闘機で、B61核爆弾が搭載可能になっている。
 米空軍の公開資料によると、第391戦闘飛行隊に所属するF15Eは2021年秋、ネバダ州のネリス空軍基地で実施された「DCA核兵器システム評価プログラム」に参加し、B61の模擬弾を投下している。米空軍航空戦闘コマンドの司令官はF15Eについて、「核兵器システム評価プログラム対応機として、同盟国には信頼を、敵国には多くの選択肢があることを知らしめる」とコメント。核の脅しをあからさまに誇示している。
 F15Eは米軍の核を同盟国に配備する「核共有」の一環として、欧州に配備されてきた。「全米科学者連盟」の核専門家、ハンス・クリステンセン氏らによると、欧州には同機などとともに、B61-3、4が約100発貯蔵されている。その爆発力は最大170㌔㌧で、広島に投下された原爆の50㌔㌧を大きく上回る。さらに、米本土には、インド太平洋地域における紛争で使用するためとして、約100発のB61が貯蔵されている。
加えて、嘉手納基地には現在、米空軍のF35Aステルス戦闘機もローテーション配備されている。米国防総省は現在、核攻撃能力を持ったF35A「ブロック4」の開発を進めており、2020年代後半の実戦配備を狙っている。これまで、嘉手納基地にはF35Aが何度もローテーション配備され、本土の米軍基地にも飛来し、日米共同訓練なども行っているが、今後は、これらがすべて核攻撃可能な機体に置き換わる。搭載する核爆弾は「B61-12」。名称は同じ「B61」でも、無誘導で自由落下する従来型と違い、「12」には精密誘導能力が付加されており、その性能は飛躍的に向上する。2022NPRは、F15Eをはじめとした現存のDCA戦闘機をF35Aに置き換える方針を示している。
 現時点において、嘉手納にいるF15EやF35Aが核兵器を搭載しているわけではないが、核攻撃能力や任務を持った機体が自由に出入りすることで、日本を核戦争の拠点にするための準備につながっていくことは間違いない。核兵器を搭載した艦船・航空機の寄港・飛来を容認する1960年の「核密約」は、今なお有効だ。しかも、日本国内では、自民党の一部や日本維新の会などが非核三原則を踏みにじり、「核共有」を公然と主張している。これが実現されれば、沖縄に核兵器が配備されるという悪夢が再来しかねない。沖縄への核貯蔵権も、米国は1969年10月の日米密約で今なお保持している。



 米国は中国やロシアの核戦力に対抗して、みずからの核戦力を近代化するという狙いを隠していない。核戦力を統合運用する米戦略軍は核戦略に関する各種演習を実施しているが、2022年1月の図上演習「グローバル・ライトニング(全地球電撃)」では、インド太平洋軍も統合して実施された。中国に対抗するため、日本周辺で米軍が核兵器を使用するという選択肢は、決して絵空事ではない。
 岸田文雄首相が「歴史的」だと自画自賛したG7サミットの共同文書(核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン)は、中国・ロシアの核兵器を厳しく非難する一方、米国などの核兵器は「防衛目的」だとして正当化している。しかし、2022NPRでは、ペリー元米国防長官らが最低限の要求として求めていた核の「先制不使用」は盛り込まれず、「先制核攻撃」の選択肢は排除されていない。それでも「防衛目的」なのか。しかも2016年当時、オバマ政権が検討していた「核先制不使用」について、日本政府が反対していたことが明らかになっている。
 「核兵器のない世界が望ましいが、それは究極目標だ。いまは抑止力として必要だ」「専制国家(中国・ロシア・北朝鮮)の核は悪だが、民主国家(米国とその同盟国)の核は正義だ」。こうした思考にとらわれている限り、一歩も前進することはない。「核兵器は絶対悪であり、いかなる国の核も許されない」。こうした立場に立ち、核兵器禁止条約の下に結集することにこそ、未来がある。